分離給与における飼料給与の留意点

飼料給与方法

分離給与とは、繋ぎ飼い牛舎で一般的に行われている、粗飼料と濃厚飼料を別々に給与する飼料給与体系です。近年増えてきている自動給餌機による飼料給与も、分離給与の一つと見なすことができます(飼料を混合して給与するタイプの装置は除く)。
ここでは、分離給与の利点と欠点、分離給与の留意点、飼料給与体系案について紹介します。

1. 分離給与の利点と欠点

分離給与には、TMR給与と比較して、以下のような利点と欠点があります。

<利点>
  • 個体ごとに飼料給与量を増減できるので、乳牛の栄養要求量に応じた飼料給与が可能。
  • ミキサー等の設備投資を必要としない。
<欠点>
  • 飼料の選び喰いをしてしまう。
  • ルーメン発酵を安定させるのが困難である(下図参照)。
  • 濃厚飼料を多給する場合は、ルーメンアシドーシスになりやすく、飼料効率が落ちる場合がある。
  • 粗飼料の給与量、実際の摂取量を把握するのが難しい。
TMR
TMR給与の発酵パターン

2. 分離給与の留意点

以上のような欠点があることから、分離給与体系では、いくつか留意する点があります。以下にその留意点について説明します。

<濃厚飼料の給与量の確認>

  • 濃厚飼料は、飼料スコップ等で給与し、この杯数を給与量の目安にしている場合がほとんどです。しかし実際に計量してみると、一杯の量が思っていた量と異なっている場合があります。給餌作業をする人が変わると、一杯の量がバラついている場合も多くみられます。そのため、定期的に給与量を計量し直すことと、給餌作業をする人によって給与量がばらつかないようにする工夫が必要です。

<1回の給与量と給与回数>

  • ルーメンの状態を安定させるために、濃厚飼料を1回に給与量できる量は最大3kgといわれています。6kgの給与ならば1日2回の給与で良いのですが、9kgならば3回、12kgならば4回と、濃厚飼料を多く給与するほど、給与回数を増やす必要があります。
  • 給与回数を増やし、1回の給与量を減らすほど、ルーメンの状態はより安定します。

<粗飼料の給与量の確認>

  • 濃厚飼料よりもさらに分かりにくいのが、粗飼料の給与量と摂取量です。粗飼料不足・濃厚飼料過多を防ぐために、粗飼料の摂取量を確認しておく必要があります。
  • 大まかな給与量は、乾草やロールサイレージを1日に何個消費するか、細切サイレージをフィードカーで何杯給与するか等を確認し、この量を給与頭数で割ることで把握できます。乾草・ロールサイレージ1個の乾物重量は以下の表で推定する事が可能です。
ロール重量

例:幅120cm×直径160cmの1番ラップサイレージを1日2個、60頭に給与したとすると

390kg(乾物)×2個÷60頭=13kg(乾物)

ラップサイレージの水分含量が50%のときは

13kg(乾物)÷0.5=26kg(現物)

となり、1日に26kgのラップサイレージを給与しているのだと、大まかに把握することができます。この量から残飼量をひくと、大まかな摂取量が把握できます。

<粗飼料の品質について>

  • 乾草やロールパックは、細切りサイレージに比べて、ロットによる成分のバラつきが大きくなります。収穫した畑ごとにまとめて保管するなどの工夫が必要です。ロットや見面が大きく変わった場合は、飼料分析を行うことをお勧めします。

<乾乳牛の管理>

  • 搾乳牛と搾乳牛の間に乾乳牛を繋ぎ飼いすると、搾乳牛の飼料を盗食する場合があります。これは過肥や、周産期病を引き起こす原因となります。同一舎内で乾乳牛を飼養する場合は、それらをまとめることをお勧めします。

<分娩後の管理>

  • 分娩後は一定のペースで濃厚飼料を増給することが重要です。増給ペースは、0.3kg/日が一般的に推奨されています。とはいえ、分離給与では1日に0.3kgずつ増量するというのは困難ですので、週に2回(例えば月曜日と木曜日)、1kgずつ増量すれば、おおよそ0.3kg/日のペースになります。
  • 濃厚飼料の増給中は、飼料給与量を把握するのが難しいので、牛ごとにボードを用意し、現在の飼料給与量を記入していくなどの工夫が必要です(下図参照)。
図3.ボード
図4.柱に記入
  • 濃厚飼料の増給は、牛の調子が良いのであれば乳量に応じた加減は行わず、一定のペースを保つべきです。ただし、牛の調子が悪く粗飼料の食い込みが落ちた場合は、濃厚飼料の増給を止め、様子を見る必要があります。
  • 自動給餌機を使用する場合は、緻密な増給ペースの設定が可能となります。この場合は0.3kg/日の増量ペースとなるように、プログラム給餌することをお勧めします。

<濃厚飼料の最大給与量の考え方>

  • 濃厚飼料を多量に給与し過ぎると、給与飼料の栄養分の割合が、NFC(糖分)過多・繊維不足になり、ルーメンアシドーシスを引き起こします。そこで、濃厚飼料の最大給与量を設定する必要があります。
  • 最大給与量の設定は、飼料計算を行い、適正な栄養分の割合を維持(特に最低繊維の含量)できる濃厚飼料の量を確認することをお勧めします。また、乳牛の食欲や、糞の状態などを勘案して設定する必要があります。