暑熱対策について

施設

本来牛は、野生の生物であり、それを人の手で飼育管理する時点で、ストレスを避けることが出来ません。飼うからには、可能な限り自然な環境を最大限与えることが重要となります。 時として、劣悪な環境下で飼育管理されているケースも見受けられます。5月~10月は、気温も上昇しますので、暑熱対策を5月迄に行って、牛舎内の環境を良くし、牛のストレスを軽減しましょう。

✤温湿度指数(THI)

気温とともに、湿度もまた乳牛に悪影響を及ぼします。この2つを総合して評価する方法として、温湿度指数(THI)が活用されます。THIは表1によって算出され、この値が72を超えると、乳牛はヒートストレスを受けると言われています。乳量損失も、生産性の高い乳牛程、大きく影響します。

暑熱対策1

図1は平成17~18年の、帯広市の気温、湿度、THIの推移ですが、これを見ると、5月から9月までの5ヵ月間、ヒートストレスによる影響を受けていたことになります。また、同様に平成17年に帯広市で最も暑かった8月6日の気温・湿度・THIを見ると、この日については、THIは昼夜を問わず、72を超えていたことになります(図2)。放牧管理等を取り入れている場合、少しでもTHIの低い夜間に放牧するなどの手段も良策でしょう。牛舎内管理においては、換気を実施することによって乳牛の体温およびTHIを下げることに繋がります。

暑熱対策2
暑熱対策3

✤換気の効果

  • 牛舎内に風速1~1.5m/sの風が吹けば牛の体温、牛舎内の温湿度の上昇を防ぐことにつながります。
  • 牛舎内を乾燥することにより、乳房炎などの予防にもなります。
  • 牛舎内が涼しいため、給餌・搾乳などの牛舎内の作業が容易になります。
  • 夏場のアンモニアなどのガス濃度の上昇を防ぐことができます。
  • 牛舎内のホコリ、クモの巣、ハエ、ダニなども少なくなります。

✤夏場の牛舎温度による変化

  • 夏場の換気は、牛舎内のカビ防止、ホコリなどを排出し、牛体の暑さ対策を十分に行うことが重要です。
  • 乳牛は気温が22℃以上になると呼吸数も増え始め、乾物摂取量が落ち、乳量・乳成分・繁殖成績が低下しやすくなります。
  • 牛舎内の牛体感温度は、風速1mで、実際の温度の約6℃低下します。
  • 窓から直射日光を牛舎内に入れないように、ブラインド、遮光ネットなどの対策を講じることが必要です。

✤暑熱対策

  • 夏の気温上昇により、暑熱ストレスに加えて、飼料の消化代謝に伴う体内からの発熱も重なり、食欲不振となります。特に高泌乳牛はその影響を受けやすく、乳量や乳成分の低下につながり、痛手となります。
  • 舎内環境の調査と点検は次の通りです。
  1. 牛床、通路、バルク室、飼料置場等の位置、壁や窓、2階の換気、牛舎周辺の遮へい物の調査など。
  2. 各通路の手前-中間-奥での温湿度、風速、風向を測定、牛床や通路の風の流れを確認。
  3. 飼槽付近の風速と、牛の首から肩付近のファンからの風速を測定。尚、ファンの台数、角度が適正かどうかを確認。

✤送風を取入れた暑熱対策

  • 気温26℃のときに秒速1mの風を当てれば、牛の体感温度は20℃に感じます。
  • 舎外から新鮮な空気を取入れて、舎内の湿った空気を外に押し出すという送風と換気を考えた暑さ対策が必要不可欠です。
  • 換気することによって、有害ガス(アンモニア、二酸化炭素など)が排出されます。

✤飲水量と乳牛の適切な関係

  • 乳牛の飲水量は、エサの食込み、乳量及び繁殖などに大きな影響を及ぼします。
  • 牛乳の約87%は水分ですので、乳量40kg/日の乳牛では、そのうち約35Lが水に相当します。尿として、約20L/日、糞として約40L/日、呼吸で約20L/日の水が失われますから、単純に計算しても1日に約115Lの水を体外に出していることになります。従って、十分に水が飲めないと、結果的に牛は乳量を落とすことになります。
  • 乳牛の飲水量は、乾物摂取量、飼料中の水分、蛋白含量、気温などの環境条件、乳量などが影響すると言われています。
  • 乳牛は、常時水を飲んでいるのではなく、配合やサイレージなどの飼料が給与された後、30分程経過してから一斉に水を飲みます。搾乳中や反芻をしているときには、あまり水を飲みません。
  • 気温が高くなると1頭当り100L~120Lの水を飲んでいますが、気温が低くなると飲量水は減少します。
  • 乳牛は1回の飲水で4~6Lの水を一気に飲むと言われています。

✤暑熱対策の効果が乳量に反映

  • 乳牛は5月から徐々に気温の影響を受け、その影響は10月迄続きます。
  • 5月~10月は、乳量が約10%(4月を100として)くらい低下することもあります。従って、4月~5月の内に、暑さ対策を十分に講じると良いでしょう。

✤換気状態の判断ポイント

  • 不快な臭いがする(場所によってアンモニア臭など…目が痛くなる)。
  • カビなどの臭いがする。
  • 熱くて不快。
  • メガネが曇る。
  • 荒い息をしている(特に高泌乳牛…ヒートストレス)。
  • 飼料の食込み量が低下する。
  • 牛床の上で立っている牛が目立つ。
  • 放牧している牛が、牛舎に入りたがらない。
  • 牛舎に放射熱がいつまでもこもる。
  • 冬場に結露した天井は、黒く形跡が残るので、よどむ場所を特定できる。
  • 牛床や通路がいつまでも乾きづらい。
  • 窓が汚れやすい。

✤体熱と換気について

  • 乳牛が1時間に発する熱は、ヘアードライヤーを1時間まわすのと同じぐらいと言われています。
  • 高泌乳牛が多い牛舎では、莫大な熱量を発していると思われます。従って、牛体から体熱を奪って、奪った体熱を速やかに屋外に放出しなければなりません。
    ✶暖かいものは、冷たいものに触れると、冷たいほうに熱が移動することを考えて、換気しなければなりません。
  • 牛体の皮膚近くの空気が移動したり、直接当ることで、体熱が奪われます。
  • 気温が22℃以上になると熱の放出量は主に揮発冷却によって行われ、乾物摂取量の低下が始まる温度でもあり、換気による暑熱対策のカギは気温22℃と言えます。
  • 最も発熱量の多い首から肩付近に風がよく当るように配置する良いでしょう。
暑熱対策4

✤栄養管理面から

1)エネルギー
暑熱環境下では、乳牛の要求するエネルギー量も増加する一方、飼料摂取量は低下傾向にあることから、給与飼料のエネルギー濃度を高める必要があります。しかしながら、エネルギー濃度の上昇はルーメンアシドーシス発生に繋がる危険性も高いことから、飼料中のNFC濃度は高くても39%以下に抑えるべきです。また、ヒートストレスにより乾物摂取量が低下している場合、エネルギー補給の意味で脂肪を添加することは効果がありますが、脂肪に対する考え方は、通常と同じです(給与飼料乾物中6~6.5%以下)。
2)蛋白質
給与飼料中の蛋白質不足は、産乳性に直接影響します。特に暑熱時、飼料摂取量が低下している際には、飼料プログラム中の蛋白質の濃度を再確認する必要があります。しかし、蛋白質の過剰給与は避けるべきです。蛋白質は炭水化物に比べて熱生産量が高く、過剰な蛋白質給与はヒートストレスを助長します。また、ルーメン内で余剰に生成されたアンモニアを処理する際にもエネルギーを使用し、その結果、血中の尿素態窒素濃度の増加(肝臓への負担増)が受胎率にも悪影響を及ぼします。ルーメン内分解性蛋白質、バイパス蛋白質のバランスをしっかりと取りましょう。
3)ミネラル
暑熱環境下において、乳牛のミネラルは汗として排出されるため、体内に蓄積されたものがどんどん無くなっていきます。人間の汗にはナトリウムが多く含まれていますが、乳牛の汗に最も多く含まれているのはカリウムであり、次いでナトリウム、マグネシウム等が多く含まれています。これらのことを考慮した飼料プログラムが必要となります。NRC2001に記載されている要求量より多めが推奨されています(カリウム:1.4~1.6%、ナトリウム:0.35~0.45%、マグネシウム:0.35%)。実際には、ヒートストレスの始まる3~4週間前から考慮することが有効です。
4)ビタミン
ビタミンもまた、暑熱による負荷により消耗されていきます。ビタミンA、Eには、免疫力増進作用のあることが知られており、体内からビタミンが失われることは、乳牛のルーメン、繁殖、免疫機能を低下させます。これに高温多湿の条件が重なると、環境性・伝染性乳房炎の原因ともなります。
暑熱により乳牛が受ける影響(ヒートストレス)は、本格的に暑くなる前(5~6月頃)から、徐々に始まっています。暑熱対策としては、上記以外にも施設、粗飼料の品質、給与手段等、様々なポイントがありますが、出来るところから改善、対処し、乳牛の被るダメージを最小限に食い止めるよう、心掛けることが大切です。