サシバエについて

疾病

1.実例

ある年の9月下旬に、札幌市近郊の大型酪農場(フリーストール)から、乳牛の行動がおかしいという連絡があり訪問しました(図1左)。担当の方の説明では、9月中過ぎから次のような状況にあり、サシバエがいたということと、牛が固まっていたことから、担当の方の見立て通り、牛のこれらの行動はサシバエが原因と推定したところです。

  • 乳牛がパーラー側の方に寄らない
  • 乳牛が奥の方に集まっている
  • 乳牛が寄らない部分の飼槽のTMRも採食されていない
  • 西日は射すが、それを避けている様子ではない
  • 育成舎の子牛は運動場で固まっていた
  • サシバエはいた

また、同じ年の10月下旬に訪問しました道南の大型酪農場(フリーストール)でも、牛舎の両サイドに乳牛が行かなくなったと聞きました(図1右)。これもサシバエの影響だったかもしれません。

サシバエ1.JPG

2.サシバエの害

サシバエに刺された牛(人も)は強い痛みや痒さを感じるため、フリーストールやフリーバーンでは、立ったまま日中を過ごしたり、身を寄せ合って防御しようとし、飼槽や水槽に行かなくなったりします。繋ぎ牛舎では、落ち着きなく寝起きを繰り返したり、足を上げたり尾を振ったりします。その結果、飼料の採食量や飲水量が減ったり、睡眠や休息が妨害されることから、乳量や増体量が低下することになります。乳牛1頭当り1匹のサシバエは、乳量を0.7%低下させるという、古いデータもあるそうです。さらに、刺し傷からの黄色ブドウ球菌感染や、搾乳中の乳牛のサシバエ回避行動からの、ライナーのスリップや脱落などで、乳房炎の原因にもなります。

3.サシバエとは

成虫のみならず蛹、ウジも、見た目には、見分けがつかないほどイエバエに似ていますが、成虫は口(口器)によって簡単に見分けることができます。イエバエの口はエサをなめるのに適した形であるのに対して、サシバエでは吸血に適したとがった口となっています(図2)。活動期間は春から秋まで長期にわたりますが、最盛期は9~11月の秋であり、産卵場所は、長期間移動がない、湿気の多い繊維質の多い牛糞、堆肥や飼料残渣等であり(牛舎内がほとんどの発生源 → 下記サイト参照)、家畜から朝夕2回吸血する以外は、畜舎周辺の木の幹・葉の裏、草むら、牛舎の壁等で休息しているとされます。

サシバエ6

4.サシバエ対策

上記のサイトで山本喜康氏は、サシバエ対策を次のように紹介しています。

①発生源確認
発生源を特定する(子牛の居る場所、牛があまり踏まない所、有機物が堆積している所、水分が多い所、特に水呑場の下など)。
②発生源対策
発生源を極力除去するが、それが困難な場合は、殺虫剤(幼虫対策用殺虫剤)を併用。
③畜体保護対策
シラミ、マダニ駆除用のプアオンタイプのピレスロイド系殺虫剤や、イヤータッグ型の殺虫剤。
④周辺環境への殺虫剤散布
吸血以外の時に潜んでいるサシバエ駆除のために、ハッチ、牛舎の壁、柱、柵等に散布。
⑤虫体への直接散布
農場に生息するサシバエの成虫の割合は約20%で、残りは卵、ウジ、蛹の状態でいるとされることや、薬剤に極力頼らない観点からは、1および2が重要かと思われます。

また、コスト、緊急性、労力の関係から、他に紹介されている例として、次のような方法もあります。

  • 100頭フリーストール牛舎(送風ファン38台あり)の壁2面に、2mm目合いの防風ネット設置(兵庫県)
    ネット面積235㎡、設置費用約20万円、牛にたかるサシバエ・草むらのサシバエ70-80%減少、但し、発生源の日常的衛生対策・幼虫対策・牛舎周辺の草刈も重要
  • 環境対策に加えて、サシバエ駆除に効果がある耳標型駆除剤を導入した結果、牛が偏るという集団行動が全くなくなった(兵庫県)。

5.参考サイト

「肉牛放牧における害虫対策」-弊社「牧草と園芸」誌 第56巻第2号(2008年)
(弊社のホームページからご覧になれます)