【牛の発情周期における卵胞発育とホルモン動態】
受精は、卵巣中で十分に発育した卵胞から卵子が排卵されることから始まります。発情周期中(約21日)には2~3つの卵胞発育ウェーブが発現し、最後のウェーブで排卵が起こります。
牛の発情周期における卵胞発育とホルモン動態の模式図を示します(図1)。前回の排卵後にFSHサージが起き、FSH依存性の小さな卵胞群が同時に発育を開始します(第1ウェーブ)。卵胞発育が進むと卵胞からE2とインヒビンが分泌され、これらは負のフィードバックによってFSHの分泌を抑制するため、多くの小卵胞は退行していきます。その中で、よりFSHに感受性の高い卵胞が徐々に選択され、最終的に1つの優勢卵胞となると、その後はLH依存性に発育が進み大型化していきます。しかしこの時は、排卵後に形成される黄体からのP4によってLHのパルス状分泌が抑制されるため、これ以上発育が進まず閉鎖退行します。そうして卵胞からのE2とインヒビンの分泌が消失すると、再びFSHサージが起きて次の卵胞発育ウェーブが開始されることになります(第2あるいは第3ウェーブ)。一方、発情周期後期の黄体退行時のウェーブではP4濃度が低下するため、LH分泌のパルス頻度が上昇し、優勢卵胞はさらに発育が進んで成熟卵胞になります。成熟卵胞から分泌される大量のE2は発情を発現させるとともに、今度はGnRHを介した正のフィードバックによってLHおよびFSHサージを誘起して排卵に至ります。そして、次の新たな卵胞発育ウェーブが始まることになります。

〔用語説明〕
- 【FSH】
- 脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン。小卵胞の発育を促す。
- 【E2】
- エストラジオール。卵胞ホルモン(エストロジェン)の一つで、発育中の卵胞だけが排卵前に分泌し、発情を誘起させる。
- 【インヒビン】
- 発育中の卵胞から分泌され、下垂体からのFSH分泌を抑制する。
- 【LH】
- 脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモン。発育卵胞に働いて卵胞を成熟させるとともに排卵を誘起し、黄体の形成に関与する。
- 【P4】
- プロジェステロンは黄体から分泌される代表的な黄体ホルモン。子宮内膜の着床性増殖、子宮運動の抑制、妊娠の維持、性腺刺激ホルモンの分泌調整などの作用がある。
- 【GnRH】
- 脳視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン。脳下垂体に働きかけて性腺刺激ホルモンであるFSHおよびLHの分泌を促す。