輸入乾草について(Ⅰ)

<わが国における乾草輸入量の推移と現状>
 わが国の酪農において輸入乾草は主要な粗飼料源となっており、近年では、都府県のみならず北海道での利用も増えております。わが国の乾草輸入量の推移を振り返ると、昭和50年度は約4万トンであったのに対し、昭和55年度には約12万トン、昭和60年度には約20万トン、昭和63年には約75万トンまで増加しております。この背景には昭和60年のプラザ合意以降の円高により輸入乾草を大量に購入できる経済環境が整ったこと、昭和62年には生乳取引基準の乳脂肪率が3.5%へ引き上げられたことが要因と言われております。また飼養頭数の増加による労働力不足により簡易に入手できる輸入乾草への依存が高まったことも一因と考えられています。
 平成に入ると輸入量はますます増加し、平成3年度には100万トンを越え、平成9年度以降は150万トン以上で推移し、平成19年度には220万トンを超える輸入量となりました。その後はやや輸入量が下がっておりましたが、関東、東北でのUS産チモシーの利用増加により、平成24年度には再び、220万トンを超える輸入量での推移となっています。

平成19年度~平成25年度の各草種輸入量の実態

(注:集計の関係上、合計数字に誤差が生じることがあります)

<輸入乾草の種類と輸入元>
 わが国が輸入している乾草の大半は米国、カナダ、オーストラリアの3国からとなっており、品目により輸入元、輸入量は異なりますが、ライグラス類、フェスク類、バミューダグラスはほぼ100%米国からの輸入、スーダングラス、アルファルファ、オーチャードグラスも約90%以上が米国からです。一方、チモシーは米国産が多く、カナダ産は、ここ数年の資源国通貨高、ワーカー不足による作業停滞、生育時の干ばつ、収穫時の降雨から輸入割合が低下してきております。オーツヘイは約98%がオーストラリア、約1.3%が米国からの輸入です。近年は、米国産アルファルファ高騰により、一部ヨーロッパからもアルファルファが輸入されています。

<輸入乾草の価格>
 輸入乾草の価格は様々な要因によって決められます。
Ⅰ.牧草収穫量
産地の天候不順や灌漑地域での利水料コストの上昇による散水制限、肥料価格の変動などにより収穫量が減少すれば流通量も減少し、需要と供給の関係から値上がりは避けられません。更に作付けする側が“牧草よりも他の作物を作った方が儲かる”となった場合には牧草作付面積の減少により同様に値上がりが起こります。数年前米国のバイオエタノール需要の増加で、米国ワシントン州において、これまであまり作付されていなかったとうもろこしが牧草にとって代わりチモシー、アルファルファなどの牧草生産量が減少したことは記憶に新しいと思います。

Ⅱ.海上運賃
わが国へ乾草を輸入する際はドライコンテナと呼ばれる温度や湿度の調整設備の付いていないコンテナに入れられ、コンテナ船による輸送によって運ばれます。そのため船を動かすための燃料価格が高騰すれば海上運賃が上がり、乾草の価格にも反映されます。なお、海上運賃は、主にGRI(General Rate Increse:基礎価格)と燃料価格変動に対し調整されるBAF(Bunker Adjustment Factor:燃料費調整係数)、米国に限っては、IFS(Inland Fuel Surcharge:米国内陸燃料割増料金)などによって変動します。
最近は、Transhipmentと呼ばれる日本に直接寄港せず、釜山港やシンガポール港、台湾港などでコンテナ本船からフィーダー船(フィーダー:支線)と呼ばれるやや小型の船に積み替えられ日本の港に入ってくるケースが増えてきています。そのため、海上運賃コストが下がりにくくなっています。

Ⅲ.他国の影響
 これまで米国の乾草を輸入する国は日本が中心でしたが、最近では乾草輸入新興国(UAE、中国など)の酪農発展によりそれらの国による乾草需要量が増大し、乾草価格の高騰が起こっております。また、米国産アルファルファについては、2006年までは、日本が米国輸出量の約70%を占めていましたが、前述の通り、UAEや中国の購買量が大きく増加しており、2010年には約50%まで低下しております。さらに求める品質においても以前は、UAEや中国に韓国を加えた米国と取引量が多い国々と日本が求める品質の差が大きくあり、あまり競合は起きていませんでしたが、近年では、UAE、中国においても中程度~高品質のアルファルファ需要が増えており、日本向けのグレードと競合することも起きています。
 乾草輸出国である米国の乳価とも密接な関係があり、乳価が上がれば米国内での消費が増加し、輸出へまわる量が減少、価格の高騰が考えられます。

Ⅳ.産地から利用までの流れ
1.刈取りから乾燥
圃場で刈り取られた牧草は、主に天日にて1~2週間かけて乾燥させます。これをサンキュアリングと言います。(補足:一部のカナダ産牧草など水分調製がうまく行かない場合、熱風による機械乾燥を行います。これをデハイと言います)この間、反転作業を複数回行い、乾草に適した水分値まで低下させます。十分に水分調整を行った牧草は、梱包作業に入ります。以前は、Three Tie(スリータイ)と呼ばれる方法での梱包が多くありましたが、近年は、ビッグベーラーにより大きな梱包にされることが多くなっています。その形態は、日本とは異なり、ラウンドロールでは無く、キューブ状のものが多くなっています。

写真1:刈取りの様子

写真2:サンキュアリング

2.保管
梱包された牧草は、業者がすぐに工場に運び入れる場合を除き、牧草生産農家の倉庫や圃場周辺にタープと呼ばれるものをかけて雨風をしのぎ、保管されます。保管中に紫外線による色抜けや雨などによるカビ発生もありますが、近年は品質に対する厳しい見方もあり、ずいぶんと少なくなりました。
また、保管されている単位(圃場ごと、生産者ごとなど様々)をスタックと呼んでいます。

写真3:右がタープがかけられた状態

 写真4:牧草の保管

3.買付~製品化
現地のサプライヤーと呼ばれる業者によって、現地農家での品質確認(検品)、値決めが行われます。その年の出来不出来によって、生産国内外の引き合いの強さにより価格は上下しますが、その他の要因として、乾燥工程中の降雨による影響や刈取りのタイミングが遅れている場合、栽培する草種以外の混入、保管中の品質劣化などによっても価格が変動します。最近は、化学的な分析手法を用いた検品方法を行うサプライヤーも少なくありません。これら検品により格付けが行われ、この格付けをグレーディングと呼び、検品されたスタックごとにグレードが付けられます。
買付された牧草は、各サプライヤーが持つ工場や提携先の工場に運ばれ、製品化作業が行われます。以前は、single bale(シングルベール)と呼ばれる形態の牧草を2つから1つに圧縮するdouble compress(ダブルコンプレス)という工程を経た荷姿のものが多くありましたが、最近は、生産農家の作業効率向上による機械の大型化が進んでおり、大きなベールをそのままカットする方式や大きなベールをほぐして、再度梱包する方式、オーストラリアで多く利用されている大きなベールをティーザーと呼ばれる機械でほぐしながら一定の大きさにプレスする方式などが主流となっています。ただ、馬糧用に関しては、single bale(シングルベール)を使う場面もまだまだ多くあります。
この時に注文内容に合わせて、ビッグベールやハーフカットベール、ラップ巻などの工程を行います。

写真5:プレスマシーン①

写真6:プレスマシーン②

4.船積み~輸入
輸出入に必要な書類を準備した上で、注文内容に沿った牧草を40フィートのドライコンテナに積み込み、工場から輸出港まで運び込まれます。特に米国では、州ごとで運送に関する法律が異なり、コンテナ内に積み込み出来る重量が少なくなる場合もあります。輸出港から契約した船会社の船に搭載され出港します。例えば、北米航路(PNW)では、約2週間程度の航海を経て、日本の港に到着します。日本のコンテナ荷卸し施設があるコンテナヤード(CY)に荷卸しされたコンテナは、通関申請を行った後に農林水産省植物防疫所の検疫担当者による『植物検疫』を受けます。これを略して植検と呼ぶこともあります。指定病害虫が発生している場合は、指定燻蒸庫での燻蒸が必要となり、土砂や混入が禁止されている動植物が発見された場合はship back(シップバック)といい輸出国へ積戻しもしくは、廃棄処分になります。植物検疫に無事合格し、税関から必要書類の不備などの指摘がなければ、コンテナを無事にpickup(引き出し)が可能となります。コンテナをpickupするまでの一定期間無料でコンテナヤードに置くことが出来る期間があります。これは契約により期間が異なりますがこの期間をフリータイムと呼びます。このフリータイムを過ぎたコンテナをpickupするには、デマレージと呼ばれるお金を払った後でないと引取できません。

写真7:コンテナ詰

写真8:積出港(豪州)

このように輸入乾牧草は、収穫されてから、実際に利用される方々のお手元に届くまで、長い時間をかけて運ばれてきます。