血液性状(代謝プロファイル)

<代謝プロファイルテスト>
   代謝プロファイルテスト(Metabolic Profile Test:MPT)は、凡そ30年前にイギリスのJ.M.Payneらによって提唱された健康状態の診断方法です。摂取した栄養と維持・生産に利用されるもののバランス、即ち栄養出納の均衡・不均衡を血液成分値の測定(あるいはボディコンディション、乳成分他)によりチェックをすることがMPTです。
   乳牛の口から摂取された飼料はルーメンで微生物による栄養物の分解・再合成をうけ吸収され、またルーメン以下の下部消化管で消化・吸収されます。吸収された栄養物は生体の維持に利用されるとともに乳腺で乳合成に利用されるほか、繁殖その他に利用されます。これら一連の栄養物の分解と合成、分配の過程を「代謝」といいます。プロファイル(profile)は直訳すると横顔とか輪郭であり、MPTとは、代謝の全体像を眺めることを意味した言葉です。

<代謝プロファイルテストの目的>
   栄養摂取を「入」、生産に利用されるものを「出」とし、両者のバランスを比較します。体組織は絶えず分解・再合成を繰り返していますが、バランスの中で「入」が多い場合(入>出)、余剰の栄養物は体の各部位に蓄えられる(主にエネルギーは体脂肪に、たんぱく質は筋肉に、無機物は骨に)割合が多くなり、このとき栄養物の流れは蓄積に向かいます(血液→体組織)。一方、泌乳初期など増大する生産に栄養摂取が追いつかない場合(入<出)、体の各部位に蓄えられている栄養が動員、利用されます。このとき栄養物の流れは反対になります(体組織→血液)。このような代謝の流れの違い、栄養の入出の不均衡は血液成分値に異常値をもたらします。したがって血液成分値を測定することで牛の栄養状態を知ることができます。
   牛が健康な状態とは栄養摂取と生産が均衡を保っている状態であり、反対に入出の不均衡が血液成分値に異常をもたらし、そして代謝が破綻した状態が生産病です。MPTは、生産病に陥る前にわずかな代謝の乱れを検出することで、健康な状態に回復させ、生産病の発症を未然に防止するための検診手法です。

代謝プロファイル1
代謝プロファイル2

●遊離脂肪酸(NEFA)
      体脂肪動員の指標である、エネルギー不足(空腹)により数値が増加します。周産期(分  
   娩前後)には生理的に高値を示す牛が多く、また痩せている牛ではエネルギー不足であって
   も体脂肪の動員が起きないためか増加しないこともあります。
   (ワンポイントアドバイス)
       NEFAの高値は、エネルギー摂取不測により体脂肪が動員されていることによります。こ 
   の場合、疾病・障害として肝機能障害(ケトン症、脂肪肝)、第四胃変位、繁殖障害、泌乳量 
   減少、乳蛋白質率低下などが見られます。
●尿素窒素(BUN)
      BUNはルーメンの発酵状態(飼料中のエネルギーと蛋白のバランス)を反映して変化しま
   す。低値はルーメン内での蛋白(特に分解性蛋白質)の不足を意味し、ルーメン機能の低
   下、採食量の減少が見られます。高値は分解性蛋白質の過剰や糖・でんぷん(≒NFC)の
   不足が原因であり、肝機能障害、繁殖障害につながります。
   (ワンポイントアドバイス)
      BUNが低値となる主な原因は、給与飼料中の蛋白不足によりルーメンでのアンモニア産 
   生が少ないこと、あるいはコーンサイレージ・でんぷん粕などの多給など、過剰なNFC摂取 
   によりルーメン微生物によるアンモニアの利用効率が高いこと、などが挙げられます。
      BUNが高値となる主な原因は、高蛋白・低NFCの飼料設計です。ルーサンの多給、給与
  順序の誤り、蛋白サプリメントの単一給与などによるルーメンでのアンモニア産生過剰、ルー
  メン微生物によるアンモニア利用効率の減退や、腎障害が考えられます。
      BUNが高値となっている場合、弊害として肝機能障害、繁殖障害などが考えられますが、
  数値的に20mg/dlを超える牛が多い場合には給与メニューの見直しが必要でしょう。

●アルブミン(ALB)
      蛋白とエネルギーの摂取量と肝機能を反映して変化します。慢性的な蛋白の不足、あるい
   は肝機能障害がある場合、低値になります。また蛋白が十分であっても、エネルギーが充足
   されていない場合も低値となります。一方、高値は血液濃縮を意味し、濃厚飼料過剰に起因
   した消化障害に注意が必要です。少なくとも低アルブミン(=慢性的な蛋白不足)では、高泌
  乳の実現は困難です。
 (ワンポイントアドバイス)
   ALBが低値となる原因は慢性的な蛋白・エネルギー不足、肝機能障害等があげられます。
   ALBが3.5g/dl以下の牛が目立つ牛群では、給与メニューの見直しが必要です。
   高値となる原因には、1日あたり、あるいは1回あたりの濃厚飼料量の過多(=NFC過剰)、 
  ナトリウム摂取過多(しょう油粕の多給など)、繊維不足等があげられます。
●総コレステロール(T-CHO)
      エネルギーの摂取状況と肝機能を反映して変化します。低値は栄養不足、肝機能低下の 
   表れです。
 (ワンポイントアドバイス)
   T-CHOが低値となる原因は肝機能低下、エネルギーの摂取不足です。
   T-CHOが100mg/dl以下となっている牛群では、給与メニューの見直しが必要です。
   T-CHOが300mg/dlを超えているような牛群では脂質の摂取が過多となっていること 
   が考えられますので、給与メニューの確認が必要です。
●カルシウム(Ca)、無機リン(iP)、マグネシウム(Mg)
     Ca濃度は内分泌的に強力に調節されており、通常ほとんど変化しません(分娩直後には 
  低Ca血症が問題とされています)。iPはリンの摂取状況を反映して変化するとされています
   が、全乳期を通じ、概ね一定に推移します。Mgもマグネシウムの摂取状況を直接的に反映
   して変化します。
 (ワンポイントアドバイス)
Caの低値
  直接的原因:ミネラル添加剤などの不足、粗飼料の品質不良等、摂取量の減少により一時的
  に低下する摂取量の極端な過剰により低下する。
  疾病・障害:乳熱、尿石症。
iPの低値
  直接的原因:摂取量の不足で低下する。でん粉質飼料の不足が関連する。
  疾病・障害:繁殖障害、乳熱。
iPの高値
   直接的原因:麦類や糟糠類の大量摂取など、摂取量の過剰により高値となる。
   疾病・障害:組織障害に伴い増加するとされる。
Mgの低値
   直接的原因:栄養不足、時に濃厚飼料不足、乾乳期の粗放な管理に影響され低下する。
   疾病・障害:繁殖障害、肝機能障害、(低泌乳)。