蛋白質と炭水化物のバランス

   乳牛が摂取した栄養の多くは、先ず、ルーメン内に生息する微生物が利用します。即ち、乳牛を健康に飼うということは、ルーメン内の微生物を健康に飼うということです。

蛋白質と炭水化物のバランス1

①摂取された蛋白質の中で、分解性・溶解性の部分は、微生物の出す酵素による分解作用を受け、       アミノ酸へ分解、更に微生物体内でアンモニアにまで分解されます。
②アンモニアは、微生物体内で微生物体蛋白質へ再合成されます。この時に、エネルギー源としてVF  A(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)が必要となります。
③余剰のアンモニアはルーメン壁より吸収され、肝臓にて尿素に転換されます。血液を介して、尿中窒 素、乳中尿素窒素(MUN)へ移行します。
④摂取された炭水化物(繊維、NFC)は、微生物の出す酵素による分解作用を受け、単糖類となり、更に微生物体内に取り込まれます。この時に、VFAが生成されます。
⑤VFAは咀嚼(または反芻)によってルーメン内に流入した唾液により中和、またはルーメン壁より吸収され乳牛自身のエネルギー源として利用されます。一部は微生物の体蛋白質合成に利用されます。

    乳量の増加に伴いそれに見合う栄養を充足させるために、濃厚飼料が多く給与されがちですが、基本は、出来るだけ乾物摂取量を高めること(粗飼料を食込ませること)です。反芻動物の基本は最適なルーメン発酵を維持することであり、ルーメン内の微生物がその活動を最大限に発揮するためには、充分な栄養が供給されるとともに、微生物が活動し易い環境を整えることが重要です。栄養の偏りは、アシドーシスをはじめ、様々な疾病の原因となります。

蛋白質と炭水化物のバランス2-1

<蛋白質と炭水化物のバランス(分解スピード)>
   設計上、同じNFC含量であっても、穀類の種類が異なれば、ルーメン内での発酵スピードは異なってきます。発酵スピードの速いものを多く給与した場合、一時的に多量のVFAがルーメン内にて生成されます。それはルーメン内pHの低下を招き、微生物の活動に悪影響を及ぼします。

蛋白質と炭水化物のバランス999
蛋白質と炭水化物のバランス4

  乾物摂取量を高めるということは、ルーメン内の飼料通過速度が速くなるということです。そのことから考えると、炭水化物のルーメン内消化率を高めることは生産効率を上げる上で非常に重要なことです。しかしそれは同時に、ルーメン内pHが低下し易い環境を作ることにもなります。つまり、高泌乳牛管理においては、ルーメン内微生物は、常に厳しい環境の中で生活している(ルーメンが酷使されている)ことになります。高泌乳を維持し、かつルーメンの恒常性を保つような給与飼料全体の蛋白質、炭水化物のバランスを考慮することが重要です。