1.フロストシーディング

 牧草の播種適期は大きく分けて4~5月までの春播き、8~9月上旬にかけての夏播きがあります。この時期は牧草が発芽・定着しやすく、その後の越冬が可能な時期にあたります。
 フロストシーディングは牧草種子の発芽適温より気温が下がり、霜柱(フロスト)の立つ11月上~中旬以降に播種(シーディング)し、種子のまま越冬させる技術です。越冬した種子は融雪後に地温が上がると雑草よりも早く発芽を開始しますので、通常の春播種と比較すると、雑草が少なく、良好な草地となりやすい傾向があります。施工時期が11月以降となるため、繁忙期を避けられることもメリットの一つです。
 播種する際に必要な作業工程は、通常の草地更新と大きくは変わりありません。図 1-1に基本的な作業工程を示しました。播種機はブロードキャスター、グラスシーダー、作溝型播種機(簡易更新や追播の場合)など、いずれの機械でも施工できます。1番草収穫後に更新作業を開始する夏播種とは異なり、2番草まで収穫を行ってからの更新作業となるため、収量の確保が可能です。また、既存植生に対しグリホサート系除草剤を秋に散布することになりますが、地下茎型イネ科雑草に対する除草剤の効果は、秋散布が優れることが報告されており1)、雑草対策にも有効と考えます。

(2)フロストシーディングの留意点
①播種草種
 マメ科牧草は発芽する温度がイネ科牧草より低いため、11月上~中旬に播種した場合でも、発芽し、その後枯死します。フロストシーディングはイネ科牧草の単播が基本です。マメ科牧草を入れる場合は翌年以降に追播します(写真 1-1)。
 イネ科牧草のなかでは、チモシーは種子が小さく、比重も他草種に比べて重いために種子が土壌に密着しやすく、定着率は良好です。オーチャードグラスやペレニアルライグラスなども播種可能です。オーチャードグラスは種子が大きく、比重が軽いために風で飛ばされやすく、播種ムラができる場合があるので注意が必要です。
②播種量
 フロストシーディングの場合、慣行播種に比べて発芽後の個体数がやや劣る傾向にあります。十分な個体数を確保するため、播種量は2割程度増量する必要があります。チモシーの場合は2.5kg/10a程度の播種量です。
③播種不適地
 傾斜地は種子が融雪水で流されやすいため、フロストシーディングには適しません。また、風あたりの強い圃場は種子が飛ばされやすいため注意が必要です。
④播種後の鎮圧
 草地更新の場合、発芽ムラを抑えるために播種後は鎮圧を行うのが基本です。フロストシーディングの時期は土壌水分が多く、鎮圧時にローラーに土壌とともに種子が付着し、播種ムラが生じる危険性があります。土壌表面が凍っている場合(早朝など)や乾燥している時に鎮圧を行うことで、ローラーへの土壌・種子の付着を軽減できます。

(3)道内各地の播種時期の目安
 播種時期に関しては、目安として「平年の日平均気温が6℃以下になる時期以降で、かつ、日平均気温7℃以上の日が3日以上続くことがなくなる時期から根雪始まで」とされています2)。近年の不安定な気象環境もあり、的確に施工可能なタイミングを捉えることは少々難しいかもしれませんが、北海道立総合研究機構による研究の成果で、各地(1kmメッシュ)の播種適期始日やその期間などの情報がマップ化され3)、以前よりも取り組みやすくなってきています(図 1-2)。

 また、根雪開始以降にもフロストシーディングが可能となれば施工可能期間が拡大すると考え、北海道農業公社と当社が連携して実規模レベルでの施工試験を2017年より実施しました。この試験において、積雪条件下でも積雪深など条件を整えることで、実用可能なレベルで施工が可能であることが分かってきました4,5)


参考資料
1)早川嘉彦、近藤煕(1987) 地下茎イネ科草種優占草地の簡易更新に関する研究 2.草地更新時の前植生抑圧のための
  グリホサート除草剤の散布時期と散布量 日草誌33 3:271-275
2)伊藤憲治ら(2008) 簡易耕・初冬季播種による傾斜地等条件不良草地の植生改善技術 北海道農業研究成果情報
3)牧野司(2017) チモシーにおける初冬季播種適期マップの作成 北海道畜産草地学会
4)北海道におけるフロストシーディング(初冬季播種)技術革新への取り組み 牧草と園芸.第68巻第5 号(2020年9月)
5)フロストシーディングの工期拡大に向けた取り組みの事例紹介 雪たねニュースNo.394・北海道版2020.11