(1)北海道における牧草の播種時期
北海道における牧草の播種は、土壌水分が豊富で雑草が少ない早春や8月中旬~9月上旬頃に行われるのが一般的です。最近では春播きよりも1番草収穫後に耕起、整地し、8月~9月にかけて播種する方が多く見受けられます。牧草の春播きは、農作業が集中する時期であることから播種が遅れがちであり、また、夏播きに比べると雑草が多いことや播種が遅れると干ばつに遭いやすいことから、避けられる傾向にあります。
(2)春播きのポイント
春播きは、雑草との競合や播種が遅れた場合の干ばつによる発芽不良が問題となります。そのため、土壌水分が豊富な時期、すなわち春の雪解け後、圃場に入れるようになったらなるべく早く播種することがポイントです。早春に播種することによって、雑草との競合に有利になるばかりでなく、発芽数を多く確保することができ、より良好な草地を作ることができます。逆に播種が遅れた場合は、雑草に生育が抑圧され、土壌や気象条件によっては干ばつに遭うこともあり、失敗する可能性が高くなります。春播きの播種適期は地域によって異なりますが、4月下旬~5月中旬頃です。
春播きのもう一つのポイントはマメ科牧草との競合です。春播きの場合は、播種後40~60日後に掃除刈りを行いますが、チモシーは再生力が緩慢であり、加えて気温の上昇により生育が停滞するためマメ科牧草に抑圧される恐れがあります。そのため、春播きの場合はマメ科の混播量をやや少なくするなどの対策を取る必要があります。
(3)春播きが遅れた場合の対処法
播種が遅れた場合は、無理に播くと雑草が多発し播き直しになるケースが多いため、避けたほうが無難です。播種が遅れた場合の対処法は二つあります。一つはグリホサート系除草剤を利用した播種前処理を行い、播種する方法です。詳細は「Ⅳ.除草剤の利用方法 2. 更新時の雑草対策」をご参照ください。
もう一つはエンバクを播種・収穫後に夏播き牧草につなげる方法です。手順および要点は以下の通りです。
①エンバクの播種(5月中旬~5月下旬)
ア.品種は倒伏に強く、早生品種よりも多収の中生品種が適する。
イ.播種量は8kg/10aが適当。8kg以下の場合、土が露出しやすく、収穫時に土砂を拾いやすくなる。
10kg以上では徒長気味となり、倒伏しやすくなる。
ウ.施肥は播種時にブロードキャスターで同時施用、N-P-K=5-5-5kg/10a程度を施用する。
エ.播種後は覆土のためロータリーを浅く掛ける。深くしすぎると発芽不良となるため注意が必要。
オ.ロータリー後は鎮圧を行う。鎮圧により 発芽が良好となる。無鎮圧の場合は土がフカフカとなり、収穫時に土砂が混入しやすくなる。
②エンバクの収穫(7月上旬~7月下旬)
ア.50~60日程度栽培し、出穂期(50%出穂)~出穂揃い期(100%出穂)頃に収穫する。
イ.エンバクは水分含量が高いため、予乾できない場合は水分含量が低下する出穂揃い期(100%
出穂)以降に収穫する。
ウ.収量の目安は生草収量で2~2.5t/10a程度。収量は播種時期、施肥・土壌、気象条件によって
変動する。
エ.収穫時はなるべく高めに刈取る。低く刈ると、収穫時に土砂を拾いやすくなる。
③耕起・整地(7月~8月上旬)
④牧草播種(8月中旬~8月下旬)
草地から草地に更新する場合、シバムギやリードカナリーグラスなどの地下茎型イネ科雑草の防除が課題ですが、既存植生に対して除草剤散布した上で、エンバクなどのムギ類を一作挟むことにより、雑草の割合を低下させることができると考えます。また、エンバク収穫後に、別稿「除草剤の利用方法 2.更新時の雑草対策」で紹介しているグリホサート系除草剤による播種前雑草処理(播種床処理)を実施することで、リードカナリーグラスなどの種子繁殖性の強い雑草に対してより優れた防除効果が期待されます。
(4)エンバクとの同伴栽培
春季に牧草とエンバクを同伴栽培することで、播種当年の収量が確保できます。また、エンバクの初期生育が極めて優れるため、雑草の抑制効果も期待されます。最近では播種時期が夏季に集中する傾向にありますが、その時期の天候が崩れ、播種が遅れると冬枯れリスクが高まります。春更新の場合は越冬までに個体が充実するため、冬枯れリスクは低減されます。
①作業スケジュール
作業スケジュールを図 4-1に示します。播種は5月中に済ませ、生育期間は60~70日程度が目安です。エンバクを収穫した後に牧草が再生し、草地として利用できるようになります。播種が遅れると草丈が短い状態で出穂し、低収になります。
②作業工程
図 4-2に播種の作業工程を示しました。
ア.牧草とエンバクは種子の大きさが異なるため、別々に播種するのが基本。
イ.初めにエンバクを3.0kg/10a程度播種し、ロータリーハローなどにより浅く覆土する。エンバクを覆土
せず、ケンブリッジローラーの鎮圧のみとすると、干ばつ害や鳥害を受ける可能性がある。
ウ.鎮圧した後、牧草を通常の播種量で播種し、再度鎮圧を行う。
(5)夏播きのポイント
夏播きは雑草が少なく、チモシー主体の草地を作りやすい反面、播種が遅れると牧草の越冬性に影響してきます。特にマメ科牧草を混播する場合は、8月中~下旬頃までに播種する必要があり、播種が遅れるにつれて冬枯れする危険性が高まります。チモシー単播も同様に8月末までに播種するのが理想ですが、農作業スケジュールの関係上、難しいのが現状です。
最近の現状を鑑みると、チモシー単播の播種限界は9月上旬頃(一部温暖な地域では9月中旬)と思われます。播種晩限に関する詳細は別稿「アルファルファの栽培と管理 2.アルファルファ草地の播種時期と雑草対策について」をご参照ください。