草地の植生を健全に保つ上で最も重要なポイントは、「いかに草地更新を上手に行うか」です。更新時に雑草を上手に抑え、牧草の密度を十分に確保するためのポイントを纏めました。
(1)耕起する前に前植生を確実に枯らす
草地更新の対象になるような草地は、収量が低く、家畜の嗜好性が低下した草地が多いと思われます。そのような草地は、シバムギ、リードカナリーグラスなどの地下茎型イネ科雑草が優占していることが多いものです。
これらの雑草が優占した草地を除草剤処理せずに、そのままプラウもしくはロータリー耕起して草地更新した場合、埋没された地下茎が再生し、再び増殖します。イネ科雑草の種類によりますが、シバムギの場合は、更新後3~4年で更新前のシバムギ草地に戻ってしまい、せっかくかけた労力とコストが無駄になってしまいます。
図 5-1はプラウ耕起前にグリホサート系除草剤を散布した区(除草剤有り)と散布しない区(除草剤無し)を設置し、その後の植生の推移を調査した結果です。除草剤を散布した区は4年目調査でほとんどシバムギが無いのに対し、除草剤を散布しなかった区は4年目にはシバムギが85%に達し、再び優占してしまいました。
更新時はプラウで耕起する前にグリホサート系除草剤で前植生を完全に枯らすことが最も大切なポイントです。また、除草剤の濃度は適用範囲内において高濃度で散布することが推奨されます。地下茎型イネ科雑草は根量が多いため、根までしっかり枯らすには十分な薬量が必要になります(写真 5-1)。
(2) 更新時の広葉雑草対策
掃除刈りのタイミングや除草剤播種前処理(同日播種)については、「除草剤の利用方法 2.更新時の雑草対策」に記載されていますので、そちらをご参照ください。
(3)草地更新のスケジュール例
地下茎型イネ科雑草対策を踏まえた草地更新のスケジュール例を表 5-1、表 5-2に示しました。各スケジュールのポイントは以下のとおりです。
①春播種
前年の2番草収穫後、9月~10月にかけて除草剤を散布し、地下茎イネ科雑草を完全に枯死させます。前植生を枯死させた後、10~11月にかけて耕起し、翌年の春播種に備えます。
翌春の融雪後、畑にトラクターが入れようになり次第、すみやかに整地、播種します。
②春播種(除草剤2回処理)
①と同様のスケジュールで除草剤散布、耕起します。春に整地後、種子由来の雑草が生え揃ったら除草剤を散布し、同日~10日以内に播種します(グリホサート系除草剤播種前処理)。この方法は、前植生を枯死させるだけでなく、種子由来の1年生雑草やギシギシ、リードカナリーグラス、ハルガヤなど種子繁殖性の強い雑草を防除することができ、特に雑草が多く発生する春播種に遅れてしまった場合などで有効です。詳細は「除草剤の利用方法 2.更新時の雑草対策」の記載をご参照ください。
③1番草収穫後播種
1番草収穫後、地下茎イネ科雑草が草丈40cm程度まで再生したら除草剤を散布します。除草剤散布後は10日以上の十分な日数をあけ、前植生を完全に枯死させます。お盆前後を目安に耕起、整地、播種します。
④1番草収穫後播種(除草剤2回処理)
②を1番草収穫後に行う方法です。このスケジュールでは、播種が播種限界期の9月に入る可能性があります。1番草収穫はやや早めに行い、その後の作業もスケジュールを守って行う必要があります。
(4)播種時期を守り、密度の高い草地を作る
一般に北海道では8月末までの牧草播種が原則ですが、地域によっては9月に入ってからの播種も見られます。播種が遅れた場合は、発芽や初期生育が緩慢となり、播種当年の分げつ数も少なくなることから、草地の密度は低下し、雑草が侵入しやすくなります(図 5-2、図 5-3)。
(5)更新時の施肥管理
初期生育段階の施肥は、牧草の密度を確保する上で非常に重要です。北海道施肥標準を目安にNPKを施用し、酸性改良するための土壌改良資材も十分に施用します。
更新時にプラウ耕起で更新した場合、痩せた下層土がプラウで表層に反転されて播種床となるため養分が不足していることが多く、チモシー斑点病の発生がしばしば見られます(写真 5-2)。チモシー斑点病は窒素やカリなどの養分不足と冷涼多湿な気象条件で多発するため、特に根釧地域において久しぶりに更新した草地などで多く見られます。初期生育時にチモシー斑点病の発生が見られた場合、追肥を行うことによって、牧草の生育は回復します。