踏圧乾物密度と施肥量が発酵品質に及ぼす影響

 道東の94基のサイロにおいて、192箇所の踏圧乾物密度を測定し、サイレージの発酵品質に影響する要因を調査しました。その結果を紹介します。サイレージ調製の参考に、役立てていただければ幸いです。

1)踏圧乾物密度が高いほど良いサイレージができやすい
 図1はサイレージの踏圧乾物密度とV SCORE(発酵品質の点数)の関係を示しています。サイレージの品質は乾物密度が高いほど良質になることが分かります。
 乾物密度は150~175kg/㎥以上が推奨されています(根釧農試,2004)。175kg/㎥という密度は、ガチガチに締まっており、サイレージをむしりとろうとしても、簡単にはとれない程の密度です(この密度を達成しているサイロは全体の13%のみ)。そのためには、原料草を30cm以下に延ばし、ホイルローダーで時間をかけて踏むことが重要です。
 大型収穫機械の導入により、十分な踏圧時間を確保できない事例を目にします。サイレージの質が向上しない場合は踏圧機械の台数を増やし、間口の小さいサイロでは2本同時詰めする決断が必要かもしれません。

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2)水分含量は、高くないほうが良く踏める
 図2はサイレージの水分含量と、踏圧乾物密度の関係を示しています。水分含量60%までは、低水分ほど踏圧乾物密度が高まりやすい傾向があります。高水分である方が締まりやすいと感じますが、そうではない可能性があります。このことは、高水分での調製は、より注意が必要であることを物語っています。

 

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3)発酵品質が悪い草の成分は?
 表1にサイレージの成分と発酵品質の関係を示しました。数字が大きいほど発酵品質に及ぼす影響が強くなります。NFCは乳酸菌のエネルギー源を含む成分であり、多いほど発酵品質が良くなる傾向があります。OCWやカリウムが増えると、NFCの割合が減少します。またカリウムなどのミネラルはpHを下げづらくするので発酵品質を悪化させる傾向があります。では、どのような草がこのような特徴を示すのでしょうか。
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4)施肥量が多いと、サイレージ中のカリウム含量が高くなり、NFC含量が減少する
 ここ数年のサイレージ発酵品質の悪化について「規模拡大に伴う飼養頭数の増加によって糞尿が過剰投入されている。これが発酵品質を低下させる原因なのでは?」という仮説をたててみました。
 この仮説について検証するために、釧路・別海地区の牧場において、年間の施肥量を調査した結果を図3に示します。カリの投入量が増えるにつれ、サイレージのカリウム含量が増加し、NFC含量は減少する傾向がありました。
 北海道施肥基準では、年間カリ施用量の推奨量は18kg/10aとされています。堆肥で6t、スラリーで4t投入するとオーバーしてしまう量です。この時、化成肥料はカリウム含量が少ないものを使用して、減肥する必要があります。
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5)サイレージ中のカリウム含量が高くなると発酵品質が悪くなる
 図4は、カリウム含量を道東の平均値である2.6%(乾物中)で、踏圧乾物密度を150kg/㎥で区切り、V SCOREとの関係を示したものです。カリウム含量が2.6%以下のサイレージは、踏圧密度が低くても良いサイレージが多いことが分かります。一方、カリウム含量が2.6%以上のサイレージは、踏圧密度が高くても良いサイレージが少ないことが分かります。図5は、同様に酪酸含量との関係を示しています。カリウム含量が2.6%以上のサイレージは、踏圧密度が高くても酪酸含量が多くなってしまうことが分かります。
 図6に過剰施肥により発酵品質が悪化したサイレージの分析結果と、チェックするポイントを示します。①Ca含量が0.4%以下であるのに(マメ科混播割合が極端に高くないのに)K含量やテタニー比が高くないか(道東の平均K含量は2.6%)? ②CP含量が高く、NFC含量が極端に低くないか?この2点に当てはまり発酵品質が悪い場合は、施肥量を見直してみてください。過剰施肥になっていないでしょうか?
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6)草種を再確認する
 ここまで施肥と成分について述べてきましたが、もう1つ注意すべき点を上げたいと思います。それは草種です。多くのチモシー草地にはびこるシバムギは、繊維含量とタンパク質含量が高く、糖分含量が低いため、良い発酵を起こしにくい草です。牛に給与する場合は、消化率が低く嗜好性が悪いため、喰い込めない(乳が出ない)エサになってしまいます。是非とも1度牧草地に立ち、草種を再確認してください。シバムギを含む雑草割合が高い草地になっていたら、是非とも草地更新をお勧めします。 

7)酪酸発酵したサイレージは要注意である
 酪酸はケトーシスの原因となる物質です。ウィスコンシン州立大学のギャレット オッツェル博士は、1日に100g以上の酪酸を摂取した牛は潜在性ケトーシスに、200g以上では臨床性ケトーシスになる危険があると述べています。表2にサイレージ中の酪酸含量と、給与可能量を示しました。これはなかなか厳しい指標であり、100g以上の酪酸が給与されている事例は多々みられます。実際に泌乳中後期の牛でケトーシスが頻発する事例も目にしています。潜在性ケトーシスの経済的損失(乳量だけでも1日1頭あたり1~4ℓの損失があるといわれます)を考慮すると、是非とも酪酸を含まない良質なサイレージを調製したいものです。

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