添加剤、細切サイレージ

サイレージ添加剤の種類と牧草細切サイレージに対する効果

サイレージの原理

添加剤、細切サイレージ1

 

   サイレージの変敗を抑えるには、上図のように2種類の雑菌を抑制する必要があります。一つは生育に酸素が必要な好気性細菌で、これは踏圧・密封によりサイロ内の酸素を排除することで抑えることが出来ます。もう一つは酸素がなくても生育できる酪酸菌ですが、牧草細切サイレージの場合は酸性条件(pH4.2以下)にすることで抑制します。

サイレージ添加剤の種類と特徴
  市販されているサイレージ添加剤の殆どは、上述したサイレージのpHを下げて酪酸菌を抑えるために使用します。サイレージ添加剤には、大きく分けて2種類あり、それぞれの特徴は以下の通りです。
発酵抑制タイプ(ギ酸など)
   作用   :強酸を原料草に直接添加することで、pHを低下させる。
   メリット  :添加直後のpHが十分に低下していれば、安定した効果が得られる。
   デメリット:①強酸のため、火傷の危険性や機械・サイロに対する腐食がある。
           ②添加した直後に植物の呼吸も止めてしまうため、予乾した材料ではサイロ内に酸素 
                      が残り、二次発酵のリスクが高くなる。
発酵促進タイプ(乳酸菌など)
   作用   :乳酸発酵能力の高い乳酸菌を添加することで、乳酸発酵を促進してpHを低下させる。
   メリット  :人に対する危険性や機械・サイロに対する腐食の心配がない。
   デメリット:乳酸菌の増殖を利用していることから、条件が悪い(餌となる糖含量が極端に少ない
                   など)場合には効果が不安定になることもある。

乳酸菌の添加は必要か?
  刈り取った牧草にも野生の乳酸菌は付着しているため、無添加でも乳酸発酵することがあります。それでは市販乳酸菌の添加は必要ないのでしょうか?

添加剤、細切サイレージ2
  増子孝義(1999年)、サイレージ科学の進歩(内田仙二編、(株)ディリー・ジャパン発行)、90ページより引用

   東京農業大学の増子先生の調査によると、表1にあるように雑菌である好気性細菌は材料草1gあたり100万個(106個)以上付着しているのに対し、野生の乳酸菌数は十分とは限りません(好気性細菌の100分の1以下)。一方、これら雑菌との競合に打ち勝つために、サイレージの乳酸菌には以下のような特性が求められます。
 ①材料草中での増殖が速い。
 ②乳酸を効率よく大量に作るホモ発酵タイプである。
 ③pHを十分に低下させるために、耐酸性を有している。
 野生の乳酸菌がこのような特性を有していることは少ないことから、サイレージの乳酸発酵には、上 
  記のような特性を有した乳酸菌を材料1gあたり10万個(105個)以上添加する必要があると考えられ
  ています。

乳酸菌の餌となる糖の含量
  乳酸菌も生き物なので、乳酸を作るためには餌となる糖が必要です。東京農業大学の増子先生の調査によると、表2のように材料草中に最低でも5%以上のWSC(可溶性炭水化物)がないと、乳酸菌による発酵品質改善効果は望めません。一方、根室支庁の各地域のWSC含量を調査すると、乾物中5%以下の酪農家が散見されます(表3)。

添加剤、細切サイレージ3
                                              増子孝義(2003年)、Dairy Japan 3月号、28ページより引用
添加剤、細切サイレージ4
                                        増子孝義(2007年)、牧草と園芸、第55巻、1号、13ページより引用

サイレージ用乳酸菌(サイマスターLP、AC)の特徴
 
サイマスターLP、ACには、牧草やサイレージから分離された1,000株を越える乳酸菌から選抜した2種類の菌株が使われています。特性の違う2つの乳酸菌を組み合わせることで、今までにない乳酸発酵促進効果を実現することができました。1つは乳酸球菌のラクトコッカス・ラクティスSBS0001株で、サイレージ中での増殖が非常に速く、初期の雑菌の増殖を抑えます。しかし、耐酸性が弱いことからpHが下がり始めると菌数が減少します。もう1つは乳酸桿菌のラクトバチルス・パラカゼイSBS0003株で増殖スピードはSBS0001株より若干遅いものの、耐酸性が非常に強く、発酵後半でも高い菌数を維持してしっかりとpHを下げて酪酸菌の増殖を抑えます。
この乳酸菌をアルファルファサイレージに添加したときの乳酸菌数の推移を調査したところ、SBS0001株は発酵1日目で10,000倍に増殖し(サイレージ1gあたり10万個添加したものが10億個まで増殖)、3日目から7日目にかけて減少しますが、SBS0003株が3日目以降に同じレベルまで増殖し、その後発酵後半まで高い菌数を維持する傾向がわかりました。サイマスターはこの2つの乳酸菌によって、発酵の直後から後半まで添加した乳酸菌がサイレージ中で優占することで、酪酸菌を含めた雑菌を抑え、良好な発酵品質に繋がると考えられます。

牧草から糖を供給するアクレモ酵素
  上記のように牧草類には乳酸菌が利用できる糖分が不足するケースがあります。この糖不足を解決するために、弊社では牧草専用の繊維分解酵素「アクレモ酵素」を開発しております。アクレモ酵素によって牧草の繊維の一部を分解して乳酸菌のエサとなる糖類を作り、この糖を利用してサイマスターの乳酸菌が乳酸発酵を促進します(図1)。このように糖分を供給しながら乳酸発酵を促進させることから、様々な草種に対応することができ、安定した発酵品質改善効果が期待できます。当社では乳酸菌のみのサイマスターLPと(中水分の牧草やトウモロコシなどの飼料作物向け)、乳酸菌+アクレモ酵素のサイマスターAC(低糖分・高水分牧草や食品製造副産物向け)という規格を用意しております。

地下茎イネ科草種に対する効果
  北海道草地の植生悪化原因であるシバムギやリードカナリーグラスといった地下茎型イネ科草種は、乳酸菌が利用できる糖分がチモシーに比べて少なく、発酵初期におけるVBN(揮発性塩基態窒素、主にアンモニア)の発生が多いことから良質なサイレージになりにくい材料です。このシバムギやリードカナリーグラスで行った小規模サイロの試験では、無添加ではかなり劣質なサイレージとなりましたが、サイマスターACを添加したサイレージは、良好な乳酸発酵を示し、発酵品質を100点満点で評価するVスコアも大幅に改善しました。

北海道内の高水分牧草サイレージでの添加効果
  サイマスターAC販売初年目の2012年の北海道の牧草一番草サイレージの傾向について、発酵品質が悪くなりやすい高水分のサイレージに絞って、当社の粗飼料分析サービスのデータを整理してみました。2012年8月~2013年6月の間に当社分析グループで受け入れた北海道内の牧草1番草サイレージのうち、水分75%以上のサンプルを調査対象としました。全262件の農家を添加材ごとに分けて(無添加:87件、サイマスター:115件、ギ酸:60件)、発酵品質を調査しました。
 有機酸組成では、サイマスターは無添加より乳酸含量が多く、酪酸含量が少ない傾向、ギ酸は、乳酸含量は高くないものの、酪酸含量が少ない傾向にあり、それぞれの添加材の特徴が出ている傾向にありました。Vスコアは無添加が平均で70点程度に対して、サイマスターとギ酸は85点前後でした。高水分の牧草サイレージには酪酸発酵の抑制にギ酸添加が推奨されますが、サイマスター添加でもギ酸と同レベルの良質なサイレージが調製されていました。