暑熱の影響 牛は暑さに弱い動物です。それは第一胃という大きさ200ℓにおよぶ発酵タンクを持っているからです。わずか10頭の牛が産生する熱量は、小さな家を暖めるのに暖炉の熱量とほぼ同じです。例えると乳牛は天然の湯たんぽを抱えている状態です。成牛の適温も5~10℃と人間のそれに比べるとかなり低くなっています。 暑熱の影響を見るには、温度・湿度指数(THI)という指標があります。これは温度と相対湿度から算出されるものです。例えば、相対湿度が75%、温度は24℃でTHIは73と算出され、ヒートストレスを受けている状態になります。このように人間がちょうどよいと思うような気候でも牛は暑く感じており、人間を基準に暑さを考えてはいけません。それでは暑熱は牛に対してどのような悪影響を及ぼすでしょうか。 1. 乳量の減少 経産牛では26℃を超えると適温下より10%以上乾物摂取量が低下します。それはおおよそ2kgの乾物摂取量低下となり、それにより乳量は約4kg減少します。 2. 乳脂率の低下 第一胃で発生した酸は唾液により中和されます。暑熱期はよだれを流すことにより唾液が失われ、中和反応が弱まります。また、反芻回数も減ることにより、第一胃内のpHが下がります。その結果、乳脂率が下がります。 3. 跛行牛(足の悪い牛)の増加 原因のひとつは、先に示したように第一胃内pHが下がることにより、代謝性アシドーシスが発生します。また、暑熱期は体温を下げようと起立時間が長くなります。アシドーシスになり起立時間が長くなると、人間でいう素足の部分にあたる真皮が痛みます。傷んだ部分は脆弱な角質となり、2カ月後に表面に出てくるため、暑熱の影響による跛行は夏というよりは秋に増える傾向にあります。 4. 繁殖成績の低下 暑熱期の繁殖成績は以下のような理由で低下します。①食欲低下による栄養不足、②卵巣機能の減退、③受精直後の受精卵がヒートストレスを受ける、④ヒートストレスによりエネルギーバランスが悪化した牛は、その後、数カ月にわたって受胎率が低下します。 5. 分娩直後乳量の低下 よく暑さの影響は涼しくなってから出てくるという人がいます。どうしてそう感じるのでしょうか。その大きな要因は暑熱時期に乾乳牛だった牛が分娩後調子が悪いということが原因ではないでしょうか。図1は乾乳期の暑熱対策の有無が分娩後の乳量に及ぼす影響を示した試験結果です。両群とも分娩後の暑熱対策を行っているにもかかわらず、分娩後の乳量は、乾乳期間に暑熱対策を行わなかった群が行った群に比べて7.7kgも低かったです。これは乾乳時に暑熱の影響を受けると、乳腺の発育が阻害されるからです。搾乳牛以上に乾乳牛の暑熱対策は重要です。
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暑熱対策 私たちは夏の暑い日扇風機に当たっていると涼しく感じます。私は現在千葉に住んでいますが、海が近く、夏は風が強いです。そういう時は気温ほど暑く感じません。それは体感温度が低くなっているためです。乳牛の体感温度は気温-6√風速(風速の単位はm/秒)という数式で表すことが出来、これは風速1m/秒の風が当たると体感温度が6℃下がることを意味します。以下に暑熱対策について示します。 1. トンネル換気 北日本のタイストールでは厳寒期用の密閉式牛舎が多いため、トンネル換気に適しています。トンネル換気では牛のいる場所で、風速1m/秒以上の風速があることが望ましいです。この風速は風量計(写真1)で測ることが出来ます。牛舎容積に対して、適正なファン能力・台数、牛舎のデザインが重要になります。しかし、現地を巡回していると下記のような失敗例を見かけます。 |
写真1.風量計 |
① 牛舎の途中に飼料庫等の入気口があり、完全に牛舎が密閉したトンネル状態になっていないため、牛舎奥側の風力が弱くなっています。この場合、ビニールカーテン等で牛舎途中の入気口を塞ぐ必要があります。 ② 中央通路奥から入気しているため、通路のみ風力が強くなっています。牛の立っているとこはあまり風が強くありません。この場合は牛舎奥の窓から入気する等して、牛がいるどの場所でも風速1m/秒の風が吹くよう入気口の面積を確保する必要があります。 2. リレー式換気 ファンを設置している牧場は多いですが、適切に設置されている牧場は少ないです。ファンとファンの間隔は、ファンの直径の5~8倍とされています。角度は次のファンの垂直に下ろした地面に向くよう調整します。7mの間隔であれば設置する高さにもよりますが、だいたい垂直から25度の角度をつけます。ファンを設置する位置は、タイストールであれば牛の背中付近に風が当たる位置となります。フリーストールであれば、①給飼通路の上、②牛舎の中側にあるストールの列の上、③牛舎の外側にあるストールの列の上の順になります。適切な設置をすると牛に2~3m/秒の風が当たり、風が一定方向に流れ換気効果ももたらします。 3. スプリンクラー(ソーカー)システムの導入 送風機に加え、空気を冷却するミスト、牛体を冷やすスプリンクラーを導入する牧場が増えています。スプリンクラーはフリーストールにおいて、給飼通路やパーラーのリターン通路で冷却します。飼槽通路で行う場合、気温に応じて5~15分間隔で1~2分水が出るようタイマーを調整します。水で濡らした後はファンで牛体が乾くようなシステムになっているべきで、そうすることによって気化熱で体温が下がります。 4. 遮光ネットの設置 安価な暑熱対策として、窓に遮光ネットを貼る方法があります(写真2)。遮光ネットはホームセンターで一つの窓分数百円で購入出来ます。やってみると意外に効果のある暑熱対策です。 |
写真2.遮光ネット |
5. 乾乳舎の暑熱対策 搾乳牛舎同様トンネル換気やリレー式換気が出来るのであれば、それをお勧めします。難しいようであれば、写真3にあるような首振りファンでも効果はあるでしょう。 |
写真3.首振りファン |