別海町・(有)エスエルシー サイレージの発酵品質が良くなり経営が改善

1.原因不明の乳房炎が多発!
  別海町・(有)エスエルシーは経産牛250頭を飼養する大規模法人牧場です。
  平成20年秋頃より臨床性の乳房炎が多発し、あらゆる対策を講じてきましたが、いっこうにその数は減りませんでした。原因を見つけるため、搾乳立会を行い、搾乳手順の問題点は改善していきました。搾乳機械については過搾乳が疑われたので、自動離脱のタイミングを早めました。環境面はオガ粉に消石灰を混ぜる等して対応してもらいました。また、牛の免疫力を高めるため、ビタミン剤も増量しました。幾つかの対策を講じたものの、思ったような効果は得られず、乳房炎による廃棄頭数は30頭を超えていました。   

2.代謝プロファイルテストの実施
  その頃のエスエルシーのサイレージはずっと発酵品質が悪く、酪酸含量が高かったです。ちょうど同じ時期の他の牧場においても、サイレージの発酵品質が悪く乳房炎が多発していた牧場がありました。牛の見た目ではコンディションが良いものの、原因不明の乳房炎に悩まされていました。
  原因を探るために、代謝プロファイルテストを実施しました。栄養状態を示す値(血糖、BUN等)は正常な値でした。しかし、肝機能を示す値であるγ-GTPが高く、酪酸発酵サイレージの長期間給与による肝機能障害が疑われました。図1に各牧場における代謝プロファイルテストのγ-GTPの比較を示します。エスエルシー、A、Bがサイレージの酪酸含量が高く、γ-GTPが高かった牧場です。プロファイルテストでは各泌乳ステージ別に約30頭採血を行いますが、それらを平均した値になります。他に代謝プロファイルテストを行い肝機能に問題無かった牧場に比べ、その値は約4割高いものでした。肝機能障害による免疫力の低下が臨床型乳房炎を引き起こしていたと思われました。
  酪農学園大学獣医学部・樋口豪紀准教授によると、ケトーシスになるとβヒドロキシ酪酸が産生され好中球の貧食を妨害する要因になるとしています。酪酸発酵サイレージを給与すると同じくβヒドロキシ酪酸が産生されるので、生体内に病原菌が入ってきても、それを排除するメカニズムが働き難くなります。
  多発した乳房炎は、不良発酵サイレージが肝機能低下させ、また免疫力を下げることにより起きているものと推測されました。

3.サイレージ良質化に向けた関係者による打ち合わせ
  不良発酵サイレージが乳房炎の大きな原因になっているとわかる前から、それらを問題視して改善を図ってきました。
  例えばバンカーサイロの建設です。これにより踏圧作業がしやすい、土砂等の異物が侵入しにくい等の改善が図られました。
  また、植生は不良発酵の大きな原因になるため、雑草の多い草地は積極的に更新していました。当初、植生が悪いために不良発酵していることを疑いましたが、植生調査を行うと、他の牧場に比べて決して植生は悪くないことが確認出来ました。
  それでも不良発酵サイレージは改善されなかったため、関係者(農協、普及センター、コントラ業者、当社研究員)が集まってサイレージ良質化に向けて打ち合わせを行いました。その際の改善策は以下の通りです。①刈取り時期を遅らせ原料草の糖含量を高める、②減肥する、③植生の悪い草地の改善、④当時新製品として試作中であった「サイマスター」の添加。

4.早春スラリーの散布制限
  いろいろ打ち合わせを行っていくと、早春スラリーの散布量が多いことと、草地までの距離が遠く散布するのに時間がかかっていることが発酵品質に影響を及ぼしていることがわかってきました。
  早春のスラリー散布量は1~2㌧/10a、散布から収穫までの期間は50日以上あけることが推奨されています。しかし、前述したように例年早春のスラリー散布は時間がかかっていたため、以下の方法により早春のスラリー散布量はなるべく少なくしました。①スラリーストアから溢れる分についてはラグーンに移す、②コーンサイレージを作付けして、そこにスラリーを入れる。また、更新する草地にスラリーを入れる。  

5.サイレージ用乳酸菌の必要性
  前述した改善策により、サイレージの発酵品質は改善されました。表1は年度別のサイレージの発酵品質(1番草)をまとめたものです。平成22年度産は早春スラリーの減肥をする前なので発酵品質が悪かったです。平成23年度は早春のスラリー散布も制限し、条件が揃った年でありました。経済的な理由から「サイマスター」を全量添加とはいかず、無添加のサイレージも調製しました。しかし、無添加の結果は悪く、Vスコアは32点でした。そのため、「サイマスター」を添加したサイレージを給与している時は調子が良かったのですが、無添加のサイレージを給与するようになってから、また乳房炎が増え、乳量が低下しました。それを踏まえ平成24年度産は全量「サイマスター」添加とし、24年度産で発酵品質の悪いサイレージは出てきませんでした。

6.発酵品質が悪いと、サイレージの成分も低くなる!
  表2に年度別のサイレージの成分値をまとめました。サイレージの発酵品質が悪いと、サイレージNFC、TDNが低い傾向にありました。これは弊社微生物研究グループ・北村の研究報告と一致します。NFCが低い反面、NDFが高くなっている結果、サイレージの発酵品質が悪くなると、粗飼料比率が下がり、購入飼料コストが上がってしまいます。

7.そしてバルクの牛乳が溢れた!
  平成25年はサイレージの発酵品質が良くなったことと、その他の取組が結果に結びついたので、8月にはバルクが溢れるまでになりました。
  直近の成績を評価するために、平成25年7月のバルク乳の成績をまとめました。対照として、昨年7月の成績と比較しました。平成24年7月は無添加の発酵品質が悪いサイレージが給与されていたこともあり、あまり調子がよくありませんでした。平成25年7月は暑熱の影響があったものの、サイレージの品質が良く順調に乳量が増えた時期であります。
  図2に月の平均廃棄頭数を示しました。これは初乳、乳房炎等による毎日の廃棄頭数を平均したものです。平成24年に比べると、平成25年は廃棄頭数が半分近くに減りました。
  図3は出荷牛の平均乳量を示しました。平成24年は25.4kg、平成25年は32.2kgであり、その差は6.8kgありました。
  図4は毎日の出荷乳量の平均を示しています。平成24年に比べると、平成25年は出荷頭数が増え、平均乳量も高くなったので、一日1,870kg出荷乳量が多くなりました。

8.その他の経営改善
1)暑熱対策
  例年、暑熱時期は大腸菌性の乳房炎に悩まされてきました。そこで、平成23年夏には写真1にあるようなリレー式換気を導入しました。通常フリーストール牛舎でリレー式換気をつける優占順位は、①給飼路、②牛舎の中側にあるストールの列、③牛舎の外側にあるストールの列となっていますが、エスエルシーでは乳房炎対策として、特にストールを乾燥させたいという理由から、給飼通路にはつけずにストールの上2列にリレー式換気をつけました。
また、乾乳牛の暑熱対策も行いました。乾乳後期はフリーバーンですが、その天井に首振りタイプのファンをつけました(写真2)。これら暑熱対策により夏以降の乳量の落ち込みや、暑熱時期の大腸菌性の乳房炎が少なくなりました。
2)乾乳牛の飼養管理
  乾乳牛は二群に分けられており、クロースアップの群へは約3週間前に移動します。その群のフリーバーンの横臥するスペースは約150㎡で、一頭当たり10㎡の横臥スペースを確保するため、クロースアップの頭数は15頭に制限しています。敷料はオガ粉を約30cmの厚さに敷いており、大腸菌の感染を防ぐため消石灰を混合しています。クロースアップはTMRを給与しており、なるべく搾乳牛の飼料構成と近づけて馴致をするようにしています。
3)搾乳牛の給与メニュー
  搾乳牛TMRはグラスサイレージ、大豆粕、とうもろこしフレーク、指定配合というシンプルな給与メニューです。飼料給与は人手が変わるので、混合誤差がないように単純なメニューにしています。今年の3月より指定配合にバイパス油脂を配合しました。それにより平均乳量が2~3kgアップしました。バイパス油脂の配合により指定配合の単価は高くなりましたが、以前に比べ濃厚飼料の給与量は1~2kg減っています。それはサイレージが良質発酵することにより、栄養価が高くなっているからです。
  エスエルシーでは毎日フットバスを行っており、足の状態が非常に良いです。それに加え、周産期病、乳房炎の減少により淘汰、廃用にする牛が減りました。今年は経産牛の数が増えすぎるので、育成牛の売却も行っています。
写真1 リレー式換気
写真2 首振りファン
9.おわりに
  代表である売場利国さんは社員を非常に大事にしており、エススエルシーの職場環境はたいへん良いです。出荷乳量が一日6千kgを超えた際も、社員に対しインセンティブを支払いました。労務管理も効率的になされ、業務記録はしっかり残っています。今回、出荷頭数等の数字がまとめることが出来たのも、これらの記録が残っていたためです。
  しかし、ここ数年はたいへん苦労されたと思います。それでも常に改善を試みて経営を好転させまし た。今後は更に成績を伸ばして、より安定した経営を実現してもらえればと思います。