分娩前後の飼養管理の改善事例【標茶・(有)ノースワン】

  今回は、既存のフリーストール牛舎に乾乳牛舎と産褥牛舎を増築し、非常に成績が改善された、標茶町の(有)ノースワンのご紹介をいたします。
  (有)ノースワンは社長である小原宏樹さんが、平成14年に繋ぎ牛舎からフリーストールに移行し、経産牛頭数を80頭から130頭に増頭しました。平成17年には親戚である石川隆さんと、(有)ノースワンを立ち上げ、現在に至っています(現在の経産牛頭数は240頭)。
  (有)ノースワンは、法人にして増頭した頃から分娩直後の乳房炎が多く、分娩直後の乳量の立ち上がりも悪く悩んでいました。それは、搾乳牛はフリーストールで飼養されていましたが、乾乳牛はパドックで飼われ、雨風をしのぐ小屋があるだけでした。乾乳牛も頭数が増え、混みあうようになってから、だんだん分娩後の調子も悪くなり、乾乳牛舎の増築を検討するようになりました。
  既存のフリーストールに増築した牛床数は約60床で、その半分がクロースアップ牛に、もう半分が産褥牛にあてられました。また、分娩ペンがそれらのフリーストールに併設されました(図1参照)。立地条件の関係で、当初予定していたよりストール数は少なく、分娩ペンの数も減らしました。ストールのデザインは寝起きがスムーズに出来るよう、できるだけ突き出しスペースに障害物がない構造にしました(写真)。
図1
改善事例2
  次にどのように成績が改善されたか、その成績の一部を紹介します。
  図2に、分娩後30日以内の乳量の平均(2産以上)を示しました。今年の5~8月の4カ月間と、昨年同時期(乾乳牛舎建築以前)を比較しています。平均分娩後日数は17日で、昨年が45頭、今年が34頭の平均となっています。これを見ればわかるように、分娩直後の乳量は、今年が昨年に比べて、約8kg増えています。
図2
  分娩直後の乳量が高くなっているため、徐々に搾乳牛平均乳量も増えてきています。図3にその推移を示しました。一般的に飛び出し乳量、ピーク乳量が1kg増えると、1乳期で200~300kg乳量がアップすると言われています。それは飛び出し乳量、ピーク乳量が増えると、全体的に高い泌乳曲線になるからです。実際、新しい乾乳牛舎で分娩した牛は泌乳中期になっても高い乳量を維持しています。乾乳牛舎が出来てからまだ8カ月ですので、更に今後が期待されます。
図3

  それでは、具体的にどういう要因で成績が改善されたかを考えていきたいと思います。

分娩直後の乳房炎の減少
  図4に新規感染の発生率について示します。この図からわかるように、乾乳時期の新規感染率はひじょうに高くなっています。以前はパドックで乾乳牛が飼養され、更に頭数が混みあってきて乾乳中の新規感染が起きていたと思われます。実際、小原さんに話を聞いても、以前は分娩直後の乳房炎が多かったのですが、乾乳舎が出来てからは、それらが減ったということでした。

改善事例4


移動のストレスなどが少ない

  分娩前後でほとんど環境が変わらないことが、ストレスを少なくしていると思います。また、分娩ペンは当初予定していたより少なくなったのですが、それにより本当に分娩直前しか利用しなくなっています。ウイスコンシン州立大学のギャレット・オッツエル博士は、分娩ペンにいる日数が分娩後の乳牛の成績に与える影響について調査しています。要約しますと、分娩ペンにいた日数が3日未満と3日以上の牛を比べたら、分娩後60日以内の死亡・淘汰は、長いほうが約3倍も多かったということです。そこで分娩ペンには牛を4時間未満しか入れないことを推奨しており、分娩兆候を発見してから移動させることとしています。筆者が巡回している牧場でも、分娩ペンが多い牧場では、分娩のかなり前から分娩ペンに入れている牧場を見かけます。そのような牧場では分娩前に、ストレスで食い込みが悪くなるという話を聞きます。
分娩前後で飼料の急変がないことも良いと思われます。潜在性ルーメンアシドーシス発生は、急激に給与飼料プログラムを変更した場合に起きます。特に乾乳期から泌乳期にかけては、それが大きく変化しやすくなります。(有)ノースワンでは、乾乳牛に対しても搾乳牛と同じグラスサイレージを給与しています。それに若干のとうもろこしと乾草を混ぜ、フィードステーションにて乾乳用配合飼料を給与しています。

産褥牛群の新設
   以前は分娩するといきなり頭数の多い搾乳牛群に入れていました。牛舎を増築してからは、分娩すると産褥牛群に入れ、そこは牛床数より少ない頭数にしています。また、クロースアップ牛群もそうですが、前述したストールのデザインなど、カウコンフォートに優れた施設で飼養されています。

これからの課題
  現在の課題はサイレージの品質が安定しないということです。ここは牛舎近隣の草地とやや離れた場所の草地があります。スラリーはどうしても近くの草地に多く入るようになります。ここ数年の頭数増頭にともない、これらの草地は過剰施肥の傾向が見られます。粗飼料分析をかけても、カリウムの含量は乾物で3%を超え、酪酸含量も高くなっています。そこで、今年からコーンサイレージを20ha栽培し、そこにスラリーを多めにいれることにしています。もちろん、最近のとうもろこしの高騰に対し、飼料コストを下げたいという目的もあります。
  また、コーンサイレージがあると、搾乳牛にも良いと思いますが、クロースアップ牛に対し、NFC源の供給、ミネラルバランスの改善という点から、飼料給与メニューがより改善されることが期待されます。
  今回、筆者も改めて分娩前後の飼養管理が、生産性の改善に及ぼす影響について実感しました。今後の(有)ノースワンの更なる飛躍に期待したいと思います。