3.地下茎型イネ科雑草「シバムギ」の生育特性と防除方法

 シバムギはリードカナリーグラスと並んで草地の強害イネ科雑草に挙げられています。両者とも地下茎により繁殖するため、横に広がることによって除々に草地を優占していきます。更に、草地更新時に機械により根が分断され、増殖する特性を持っています。
 リードカナリーグラスはチモシーと比較すると、茎葉が大柄で出穂が早く、比較的容易に見分けが付きます。そのため、酪農家の方々もよく認識されている雑草です。一方、シバムギはチモシーと茎葉で区別することが難しく、更に出穂が遅いため、はたから見ると草地で優占していることに殆ど気が付かないイネ科雑草です。
(1)シバムギの生育特性
①出穂始
 シバムギの出穂は変異がありますが、チモシー中生品種よりも遅いものが多く、道央では6月中旬以降、根釧などの冷涼地域では6月下旬以降に出穂します(表 3-1)。また、出穂はチモシーなどの牧草類のように1週間程度で穂が出揃うことはなく、ゆっくりと穂が出揃います。そのため、シバムギの穂が目立つ前に収穫されることが多く、茎葉もチモシーに似ているため、気がつかないうちに優占しているケースが多くみられます。

②地下茎による繁殖
 シバムギは地下茎が非常に長いのが特徴であり、数メートルに達する場合もあります(写真 3-1)。地下茎には2~3㎝間隔で節があり、それぞれの節に1つの休眠芽を持っています。1m2当たり1万個近くの休眠芽があり、その半分は生理的活性を持っているとの報告もあります。また、休眠芽は切断により覚醒し、萌芽する特性を持っています。ロータリーなどにより地下茎が分断されて増殖するのはそのためです。また、作溝型播種機などを利用する際でもグリホサート系除草剤などで地下茎を完全に枯死させないまま播種すると、地下茎が分断されることにより休眠芽が覚醒し、増殖してしまいます。

③種子生産
 国内外の研究報告によると、シバムギが畑地に侵入する手段は、主として切断された地下茎の栄養繁殖によるとされています。
本江による以下のような報告があります1)
 ア.シバムギは自家不稔性であるため、1つの個体由来の地下茎が伸長してある面積内が遺伝的に同一のクローンで占められた場合、そこでは種子がほとんど生産されない。
 イ.シバムギ群落の周辺部ではある程度の種子が生産される。
 ウ.シバムギの種子稔実率は12%程度と低い。
 エ.畑地への侵入手段として種子の果たす役割は小さい。
 シバムギの出穂時期から推察すると、シバムギの種子が登熟し、発芽能力を持つのは8月上旬前後と思われます。通常の草地はそれまでに1番草の刈取りを行うため、草地内で種子が増殖することはまず考えられません。シバムギの種子が草地に侵入する手段としては、路傍のシバムギの種子が登熟し、何らかの経路で侵入するものと考えられます。
④倒伏性
 シバムギはチモシーよりも茎が細く、倒伏に非常に弱い特性があります(写真 3-2)。早い段階(6月上旬~中旬頃)で根もとから倒れているシバムギ草地も散見されます(写真 3-3)。早い段階で根もとから倒れている草地はシバムギが優占している可能性が高いといえます。倒伏は収穫ロスの問題だけでなく、サイレージの材料草の水分が高くなり、不良発酵の要因となります。また、長期間の倒伏により、下草にカビが生え、サイレージの品質に悪影響を与えます。

(2)シバムギの見分け方
①地下茎
 シバムギは地下茎が長いのが特徴であり、掘り取ると長く伸びた地下茎を容易に確認することができます(写真 3-1)。
②茎葉
 シバムギには茎にしっかりと巻きついた葉耳があり、葉舌はほとんどありません(写 3-4)。一方、チモシーは葉耳がなく、はっきりとした葉舌があります(写真 3-5)。このようにシバムギとチモシーは葉耳と葉舌の有無で見分けることができます。
 シバムギの茎葉には微毛が生えているので、簡単に見分けがつくという方もいますが、必ずしも微毛が生えているとは限りません。微毛の有無に関しては変異があり、微毛が密に生えているものから、全く生えていないものまで様々です。

③穂の形態
 穂はライグラス類のような形をしていますが、ライグラス類とは容易に見分けることができます。ライグラス類の小穂は手の平を広げるようについているのに対し、シバムギは手の平を閉じるように対面状に小穂がついています(写真 3-6)。

(3)シバムギの防除方法
 シバムギが優占した草地を更新する際は非選択性除草剤を散布し、完全に枯死させてから、耕起する必要があります。枯死させずにプラウ耕起した場合は、埋没した地下茎から再生してきます(写真 3-7)。
 飼料用トウモロコシの除草剤では「ワンホープ乳剤」がシバムギにも効果があるとされています。飼料用トウモロコシと牧草を輪作し、「ワンホープ乳剤」を利用しながら防除していく方法もあります。

参考資料
1)本江昭夫 寒地の多年生シバムギ(Agropyron repens)の草地における繁殖特性に関する研究 雑草研究 Vol.40 (3) 157-162(1995)

※ 本文中の除草剤は、2023年8月現在農薬登録のあるものを掲載しています。