4.シバムギ以外の地下茎型イネ科雑草の生育特性と見分け方

(1)リードカナリーグラス
①分布および利用
 ヨーロッパ、北アメリカおよびアジアの温帯に広く自生する多年生イネ科草で、日本においては北海道から九州まで広く分布しています。アメリカ、カナダ、北欧と東欧の一部では品種も育成されており、一部地域で栽培利用されています。また、日本においても排水不良地における耐性が優れることから、本州の転換畑などで利用されています。
 越冬性はチモシー並みに強く、耐暑性はトールフェスク並みに強いことから、北海道から九州の中標高地まで広い範囲に適応できる能力を持っています。
②生育特性
 ア.出穂始、収量性
 出穂始は変異がありますが、北海道では6月上旬~中旬ごろに出穂します。一般的にチモシーよりも出穂始が早いため、牧草の収穫時期である6月中旬には生長が進み、栄養価、消化性、嗜好性が低下します。リードカナリーグラスは大柄であり、収量性は高いものの粗剛で栄養価が低い特性があります。
 リードカナリーグラス優占草地から良質な粗飼料を収穫するためには、1番草は穂ばらみ期~出穂期(草丈80cmが目安)に、2番草は生育日数40日を目安とした収穫体系とすることが推奨されています。この場合、3番草の再生量が大きく、翌年の収穫時にその枯葉が混入して飼料価値が低下するので、3番草の利用が必須です。
 イ.耐湿性
 リードカナリーグラスは耐湿性に優れており、水はけの悪い草地で優占しやすい草種です。北海道では泥炭土壌の草地の主要なイネ科雑草です。
③形態的特徴、見分け方
 ア.地下茎
 リードカナリーグラスは地下茎により繁殖するため掘り取れば判断できる、と思われる方もいるかもしれませんが、シバムギほど長く横に這った地下茎は確認できないため(写真 4-1)穂や茎葉により判別するのが現実的です。

 イ.茎葉、穂
 他の牧草に比べる大型であり、出穂が早く目立つため、葉耳や葉舌などを見ずとも容易に判別することができます。2番草以降は出穂しませんが、大柄で目立ち、草地に点在するように生えている光景をよく見かけます(写真 4-2)。
 葉耳はほとんどなく、葉舌は長く先端が尖るのが特徴です(写真 4-3)。葉耳と葉舌はチモシーに似ていますが(写真 4-4)、葉幅が広いのが特徴であり、葉身を手で触るとチモシーのような滑らかさはなく、ざらつき、粗剛な感じがします。
 穂の形態は写真 4-5のとおりであり、オーチャードグラスに似た形をしています。茎の断面はオーチャードグラスが写真 4-6のとおり扁平であるのに対し、リードカナリーグラスは丸い形状であるため区別することができます。ペレニアルライグラス、メドウフェスクとの区別は、葉裏の光沢で区別できます。

④防除方法
 シバムギと同様、非選択性除草剤を散布し、完全に枯死させてから、耕起する必要があります。枯死させずにプラウ耕起した場合は、埋没した地下茎から再生してきます。飼料用トウモロコシではワンホープ乳剤がシバムギにも効果があるとされています。飼料用トウモロコシと輪作し、ワンホープを利用しながら防除していく方法もあります。リードカナリーグラスは地下茎型イネ科雑草の中でも非選択性除草剤が効きにくく、「ラウンドアップマックスロード」に関しては、他の雑草よりも高濃度での使用(500~750ml、水50ℓ)が推奨されています(「北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド」:北海道農業改良普及協会)。
またシバムギとは異なり、地下茎での増殖よりも種子で増殖しやすい草種であるため、既存個体に対する除草処理に加えて、播種床準備後、牧草播種前に埋土種子からの実生発生を待って、再度除草剤を散布する(播種床処理)体系処理が効果的です。
(2)ケンタッキーブルーグラス
①分布および利用
 ヨーロッパ原産で日本では北海道から九州まで広く分布しています。地下茎で繁殖し、密度が高いことから、牧草では放牧用として利用されています。また植生用としては公園、運動場、ゴルフ場、道路法面など幅広く使われています。肥沃でない土地でも生育しますが、耐暑性や耐干性は強くなく、年平均気温12℃までが適地といわれており、温暖地にはあまり向きません。
②生育特性
 ア.出穂、収量性
 出穂始は早く、北海道では5月下旬ごろに出穂します。牧草の収穫時期よりも出穂が早いため、気がつきやすい草種です。出穂が早いため、栄養生長期間が短く、収量は他のイネ科草種に比べて低収になります。また、牧草の収穫時期である6月中旬ごろには、かなり生長が進んでいるため、栄養価、消化性、家畜の嗜好性が低くなってしまいます。
③形態的特徴、見分け方
 ア.茎葉、穂
 葉幅が狭く葉身も長いため、チモシー、その他牧草種との区別は容易です。葉舌はチモシーよりも短く、葉耳は殆どありません。また、ケンタッキーブルーグラスを含めてPoa属(スズメノカタビラなど)は、葉の先端が船型であることと(写真 4-7)、葉脈がやや陥没し、その中央に一本のすじがあるのが特徴です(写真 4-8)。ケンタッキーブルーグラスの穂は写真 4-9とおりです。

④防除方法
 プラウによる埋没処理が有効とされており、更新後の新しい草地ではそれほど多く見られませんが、経年化に従って次第に多くなります。古い経年草地で優占している場合が多い地下茎型イネ科雑草です。プラウで埋没すれば防除可能と言われていますが、更新時に草地で優占している場合はプラウ耕前の非選択制除草剤処理を行ったほうが望ましいといえます。基本的な防除方法はシバムギに準じます。
(3)レッドトップ
①分布および利用
 ヨーロッパ原産で比較的冷涼な地域に広く分布する多年生イネ科草で、収量や家畜の嗜好性が低いことから、牧草としてはあまり利用されていません。しかし、痩せた土地でも生育し、密度の高い植生となることから、植生用草種(道路法面や河川敷の土壌浸食防止)として利用されています。また、同属のベントグラスはゴルフ場のグリーンで利用されています。
②生育特性
 ア.出穂始
 レッドトップの出穂始はシバムギと同様にチモシー中生品種よりも遅いものが多く、道央では6月中旬以降、根釧などの冷涼地域では6月下旬以降に出穂します。そのため、レッドトップの穂が出る前に収穫されることも多く、シバムギと同様に気がつかないうちに優占しているケースが多くみられます。後述しますが、チモシーとの判別が難しいため、優占していることに気がつきにくいイネ科草の一つです。
 イ.収量性
 レッドトップは密度が高い草地となりますが、草丈が低く、収量性はシバムギやケンタッキーブルーグラスと同様にチモシーと比べると低収になります。
③形態的特徴、見分け方
 ア.穂の形態
 レッドトップの最も大きな特徴は穂の先端が赤いことであり、まさにレッド(赤)、トップ(先端)は穂の特徴を表しています(写真 4-10)。しかし、先述のとおり、出穂始が比較的遅いため、草地でレッドトップの穂を目にすることはあまり多くありません。
 イ.茎葉
 葉耳は殆どなく、葉舌は長く先端が尖るのが特徴です。葉耳と葉舌はチモシーに似ており、判別が非常に難しいですが、葉舌の先端がレッドトップのほうが尖っています。葉耳、葉舌以外ではチモシーのほうが大柄、茎が太く柔らかい、葉が長く、葉幅が広い、葉が先端で捻れるなどの特徴があります(写真 4-11)。また、レッドトップは分げつ、地下茎により草地の密度が高いため、慣れてくれば、草地を上から見ただけでチモシーとの区別がつきます。
 オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスクとは先述のとおり、茎断面や葉裏の光沢で区別することができます。

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④防除方法
 本稿(2)ケンタッキーブルーグラスに準じます。

※ 本文中の除草剤は、2023年8月現在農薬登録のあるものを掲載しています。