牧草サイレージ品質悪化がもたらした分析結果の矛盾

「北海道内の牧草サイレージ品質の現状」でも紹介しましたが、北海道のサイレージが悪化傾向にあります。2002~2007年にかけて北海道で調製された3693点イネ科主体1番草サイレージの成分を見ていくと、サイレージ品質悪化は意外なところにも影響を及ぼしていることが分かってきました。
これは不良発酵し、揮発性塩基態窒素(VBN:アンモニアや低級アミン由来窒素)が高いあるサイレージの分析結果から始まりました。そのサイレージの発酵品質に関わるVBN/T-N%を見ていた時です。VBNを6.25倍した蛋白換算量が可溶性蛋白質(SIPもしくはCPs)を上回ることが分かりました。通常、図1のようにVBNはCPsに含まれる分画ですので、これは明らかに矛盾する内容となります。

 

図1訂正2
図1.粗蛋白質とその分画

図2訂正2
図2道内牧草サイレージのVBNと溶解性蛋白質の現状

そこで、これまでに分析した試料を見返し、VBN蛋白換算量をSIPから差引いた結果と、VBN/T-N%の関係を見ると(図2)、CPs-VBN蛋白換算量がマイナスとなるケース()が意外とあり、さらにVBN/T-N%が高いほど多く見られることが分かりました。
なぜこのような矛盾が起こるのでしょうか?
サイレージの分析を行うためには、均一な試料を得るために60℃程度で乾燥処理して、1mm以下の細かな粉体にします。しかし、以前からこの乾燥過程でサイレージVBNの大半が揮散することが報告されており、今回結果と併せて考えると、高VBNサイレージではVBN揮散程度が無視できない程大きく、CPsのみならず粗蛋白質(CP)の分析結果が過小評価されているケースがあると考えられました。

図3訂正2
図3.風乾処理によるCP過小評価

細かく切り刻んだ牧草サイレージの原物を直接分解して測定したCPと、通常通り風乾粉砕物を分解して測定した結果を比較してみました。
その結果、原物で測定した結果より5%以上過少となる結果()がやはり見られることが分かります(図3)。

図4訂正2
図4.サイレージ原物中CPとVBNで補正された風乾物中CP

それでは、この結果にVBN蛋白換算量を加えた結果を図4に示しました。両者が良く合致することが分かります。
以上から、これまでの粗飼料分析では、特にVBNの高いサイレージではCPやCPsを過小評価となっているケースがあるということ、その補正はVBN蛋白換算量で行えるということが分かりました。
ただ、CPという項目は成分分析の中では大きな影響力を持ちます。この補正したCP%が飼養管理面でどのような影響が出るかはまだ不明な点があり、今後吟味が必要かもしれません。

引用文献
篠田英史(2009)畜産草地研究所資料,21-2,51-60
篠田ら(2010)北畜会報 52, 53-57