北海道の牧草サイレージ品質の現状

ここ数年、北海道の牧草サイレージの品質が悪化しているように感じたのは、もう10年位前のことです。これは粗飼料分析依頼のために集まった試料からの官能的な感覚、サイレージの発酵品質結果、もう一つは分析結果の矛盾からでした。
そこで2002~2007年にかけて北海道で調製された3693点イネ科主体1番草サイレージの品質の現状について調査した内容を紹介したいと思います。

 

 

サイレージの品質基準として、pH4.2以下が良質とされています。今回、4.2以下の割合は2002、2003年では約70%程度を占めていましたが、その割合は低下傾向にあり、2006、2007年では50%を下回る結果となり、道内牧草サイレージ品質が悪化傾向にあるのが分かります(図1)。

 

図
図1.道内サイレージの分布割合

図2
図2.道内サイレージの酪酸分布割合

 

もう一方で不良発酵サイレージでは、酪酸や揮発性塩基態窒素(VBN:低級アミンやアンモニア由来窒素など)の含量が気になるところです。酪酸の分布割合を図2に示しました。良質とされる酪酸が0.1%以下の割合は2002~2005年までは60%以上で、その後低下しております。しかし、pHの経年変化とは連動していませんでした。
サイレージの変敗により蛋白質が分解し生成されるVBNの指標はVBN/T-N%で15.0以下が良質なサイレージとなります。その割合は2002、2003年で75%以上を占めていましたが、その後は低下傾向にあり、2006年には45.7%まで低下しています。サイレージpH割合の経年変化とVBN/T-N%割合の経年変化はおおよそ連動しているのが分かります(図3)。ここ数年のサイレージ品質悪化の背景に高VBNサイレージの増加が考えられます。

 

図3
図3.道内サイレージのVBN/T-N%分布割合
図4
図4.道内サイレージの水分分布割合

 

これらサイレージ品質の悪化の要因として、サイレージ調製時の踏圧不足など、調整技術の問題も考えられますが、それだけでは説明できないケースも多くあり、家畜糞尿等を含めた過剰な施肥や草地の植生悪化等の要因も複雑に関係してきているようです。また、この調査試料の7割以上が水分70%以上の高水分サイレージであり、潜在的に品質悪化を招き易い状況も要因として考えられます(図4)。
この調査で、これらサイレージ品質悪化は意外なところにも影響を及ぼしていることが分かりました。これは冒頭でサイレージ品質悪化を感じた要因の一つの分析結果の矛盾です。この内容は「牧草サイレージ品質悪化がもたらした分析結果の矛盾」で紹介したいと思いますので、興味のある方はこちらもご覧下さい。

引用文献
篠田英史(2009)畜産草地研究所資料,21-2,51-60
篠田ら(2010)北畜会報 52, 53-57