1.オーチャードグラスの特性と栽培(都府県版)

 都府県の永年草地で利用されるオーチャードグラスは、チモシーと比較して刈遅れると嗜好性は劣るものの、夏の暑さに強く再生が旺盛なことから、採草地では重要な草種です。
 オーチャードグラスの栽培で重要なことは耐病性と越夏性に優れる品種を選定することは当然ですが、梅雨前に刈取り~調製が可能な品種を選定することです。

(1)オーチャードグラスの利用方法 =混播設計=
 オーチャードグラスは都府県の広い地域で利用される草種で、単播や他草種と混播利用が行われています。混播する際は、たん白質向上のためにマメ科牧草と混播したり(表 1-3)、またオーチャードグラスの夏枯れが懸念される地域では、より耐暑性が強いトールフェスクを混播したり(表 1-4)します。

(2)オーチャードグラスの栽培上の留意点
①刈取り危険帯と秋施肥の実施
 刈取り危険帯とは、越冬性を高め翌春の1番草の収量確保の為に刈取りを行ってはいけない時期をいいます。刈取り危険帯は地域によって異なりますが、おおよそ各地域で平均気温が5℃を下回る1ヵ月前に相当します(例:岩手県:10月上~中旬、熊本県・長野県:10月中~下旬、大分県:10月下旬~11月上旬)。
 オーチャードグラスを主体にした草地では、前述した刈取り危険帯を避けた管理とあわせて、翌春の1番草収量を高める効果がある秋施肥を行います。秋施肥では株の充実を図るために窒素成分の偏重をさけ、リン酸とカリを主体に行います。施肥量は窒素-リン酸-カリで、2~3kg-3~5kg-3~5kg/10aを目安に施用します。ただし、堆厩肥(カリを多く含む)を利用する場合は、カリを堆厩肥で充当できます。
 秋施肥によって越冬前の牧草に十分な養分を蓄積させ、それによって翌年の生育を促進できます。また、冬枯れによる個体密度の低下を防ぎ、草地の永続性を伸ばすことができます。
②夏枯れ対策
 一般的に夏枯れは、日平均気温で約22℃以上の期間が2ヵ月以上続くと生育が衰え、真夏日(最高気温が30℃)が多くなるほど被害が増大する傾向があります。同じ栽培条件でも草種による差がみられ、相対的に強いのはトールフェスクで、ついでオーチャードグラスであり、チモシーは最も弱い草種です。
 2番草は一般的に天候の安定する梅雨明け後に刈取りをする場合が多いですが、そのような場合は、刈高を10㎝前後として極度の低刈りにならないように留意します。2番草刈取り後の追肥は窒素の多用を避け、窒素成分で2~3㎏/10aを上限にしますが、高温時に施肥した肥料成分は効率的に吸収できないため、気温が低下する8月中旬以降に施用します。
③雑草対策
 播種当年の雑草対策は、除草剤の利用が難しいことから、雑草の密度が高く、かつ、オーチャードグラスの草丈より雑草の草丈が高くなった場合には、雑草を主体に刈る‘掃除刈り’で対応します。雑草の草丈が高くなり、長期間に渡ってオーチャードグラスを被圧すると、光合成が十分できず、オーチャードグラスの株が枯死する場合があり、密度の低下につながります。
④採草地は刈遅れずに「適期刈り」(収穫適期のサインは‘穂’)
 オーチャードグラスやチモシーなどのイネ科牧草の収穫適期は、牧草の穂が点々と観察される‘出穂始め’から畑の半分に出穂が観察される‘出穂期’までの10日間程度です。最近はより栄養価の高い粗飼料を確保する為に、穂が出る数日前の‘穂ばらみ期’から収穫を始めることが奨励されています。これにより収穫適期を2週間程度に拡大できます。
⑤播種時期
 播種は春播きと秋播きが可能ですが、雑草競合が少ない秋播きを主体にします。