(1)エンバクの特性と栽培利用
エンバクは他のムギ類に比べると、耐寒性はやや劣りますが、土壌pHの適応性が比較的広く作りやすいため飼料用として広く使われており、飼料用ムギの代表格です。
特に晩夏播き年内刈りの作型でのロールベールサイレージ利用が主流ですが、その他青刈り用としても根強い人気があります。
発芽や初期生育が早いので作りやすい草種ですが、干ばつ気味の時期には発芽の遅れや不良がみられることもあります。播種後の覆土とローラーでの鎮圧はしっかり行います。覆土はロータリーやハローで表層部の5㎝程度を攪拌する感覚で行います。鎮圧も大事な作業です。鎮圧によって土壌の水分が種子に吸収されやすくなり、発芽が順調に進みます。
エンバクはムギ類の中では比較的湿害に強い方ですが、基本的に排水不良地での栽培には適さないので注意が必要です。
(2)オオムギの特性と栽培利用
オオムギは水分の抜けが比較的早いのでサイレージに調製しやすく、ムギ類の中では嗜好性も良いとされています。子実を含めたホールクロップサイレージとして利用されることもありますが、あまり刈取りを遅くすると茎葉部分の栄養価が低下、野毛の発生や茎葉の硬化による嗜好性の低下などがみられるため、刈取りは出穂期から遅くとも糊熟期までに行うことが推奨されます。
なお、オオムギはエンバクに比べると湿害や酸性土壌に弱いので、必要に応じて明渠、暗渠を入れるなどの排水対策や石灰散布による酸度矯正を行います。
(3)ライムギの品種特性と栽培利用
ライムギの特長は耐寒性や耐雪性が強いことです。ムギ類の中で、最も発芽性と伸長性に優れます。自給飼料の中で最も秋遅く播くことができ、早春から収穫できる作物で、しかも多収が得られます。
欠点として嗜好性がやや劣るとされ、特に出穂以降に急激に嗜好性が低下することがあるので、出穂初期での早期収穫を心がけます。
(4)ライコムギの特性と栽培利用
飼料用ムギ類の中では比較的新しい草種で、ライムギとコムギの属間雑種です。コムギにライムギの耐寒性を導入し、寒地での適応性が高められています。穀実は食用や飼料用として利用されていますが、乾物生産性が高く、自給粗飼料としても利用性が高い草種です。
寒さには比較的強いですが、耐寒性はライムギよりやや劣り、耐雪性も強くないので、極端な遅播きや多雪地帯での栽培には適しません。
利用方法はライムギに準じますが、嗜好性の低下がライムギより遅く、ライムギの刈取り適期が出穂初期までなのに対し、ライコムギは出穂期でも嗜好性の低下が少ないので刈り取り適期の幅が広く利用しやすい草種です。
図 3-1、図 3-2にライムギとライコムギのTDNおよびOb(難消化性繊維)含量の時期別推移を示しましたが、ライコムギのTDNの低下とObの上昇がライムギよりも遅いことがわかります。ただし、あまり刈取りが遅くなると茎が硬化して嗜好性や消化性が低下するので、出穂期前後で利用することが推奨されます。