ホルモン処置による定時授精

 発情微弱などの理由から発情発見が難しくなってきた現在、ホルモン処置による人為的制御によって、計画的に人工授精が実施できる技術(定時授精)が普及しつつあります。この方法の原理は、前述図1で示したような卵胞発育ウエーブを任意の時期にリセットし、新たに発育した優勢卵胞の排卵を同期化することです。
最大のメリットは、発情周期が掴めてなくても計画的に処置を開始でき、発情発見をしなくても授精ができることから、授精実施率が格段にあがることです。受胎率を損うことなく、妊娠率(=発情発見率x受胎率)が向上するので、牛群の空胎日数の短縮に大いに役立つと考えられます。
当然、投薬やPG投与に伴う牛乳出荷制限などのコストが掛かるので、発情発見率が十分に高ければこの方法を用いる必要はありませんが、発情微弱や通年繋ぎなどの理由で、どうしても発情発見が困難な場合や、発情発見はできても排卵遅延が多いなどの場合は特に有用です。また、牛群の初回授精日数を100日以内に揃えるといったことも可能でしょう。ただし、実施に際しては、卵巣の状態(卵巣静止、卵巣嚢腫など)、栄養状態、尿膣、あるいは処置を開始する発情周期の時期などによって、結果が大きく左右されるので留意が必要です。
定時授精には数多くの方法が知られていますが、その中で最も代表的であるオブシンク法と、最近良く利用されているCIDRショートプログラム法について、処置スケジュールと投薬コスト(薬品代のみ)を示します(図4)。CIDRショートプログラム法は受胎率が比較的高く、CIDRを使う方法の中では安価な方法です。
ホルモン処置による定時授精