子牛の下痢の予防方法について

子牛の下痢は、子牛の生死に関わる問題ですし、その後の数ヶ月に渡って免疫機能を低下させるといわれています。そのため、幼齢期に下痢を発症するか否かは、一生の抗病性や生産性にも影響を及ぼします。ここでは、下痢の予防方法について紹介します。

1. 乾乳時期の管理
1) 乾乳時期の管理が、出生する子牛の健康状態、免疫システム構築に影響することが報告されています。適切な飼料設計の下で、乾乳牛が必要とする栄養・ビタミン・ミネラルを適量給与する必要があります(図1)。

 

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2) 乾乳牛に対して『下痢5種ワクチン』を接種することで、初乳中の免疫抗体含量が高められることが報告されています。子牛の下痢が多い場合は検討しても良いでしょう。ワクチンの利用に際しては、必ず獣医師との相談のもとで行うようにします。

2. 初乳の給与
1) 品質の良い初乳を、適切な期間に、十分な量給与することが大切です。
(1) 初乳の品質 : 産次(産次が高い方が良い場合が多い、図2)、乾乳時期の栄養、乳房炎の有無に左右されます。初乳の比重を計ること(図3)と、PLテスターで検査を行い、乳房炎に罹患した牛の初乳を給与しないことが重要です。

 

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(2) 適切な期間 : 初乳給与のタイミングは、子牛が活発であれば、分娩後できるだけ早いタイミングで給与します。これは、子牛の移行免疫の吸収能が、時間経過とともに低下してゆくためです。健康な子牛では、生後24時間で吸収能がなくなるといわれおり、生後早い時間での給与が望まれます。原則的には分娩後30分以内に2ℓを飲ませることが推奨されています。哺乳欲のない体調不良子牛への対応については、哺乳欲を示すまで待ってから給与しても、移行免疫を吸収できるといわれています。
(3) 十分な量 : 分娩後1日の間に体重の10%(約4ℓ~5ℓ)の初乳を給与します。子牛活発で、哺乳欲を示すならば、飲みたいだけ飲ませることが推奨されています。

3. 飼料給与方法
1) 代用乳
(1) 生後1週間は移行乳を給与します。その後代用乳に切り替える場合は、同じ温度、同じ濃度の代用乳を、同じ時間に、同じ量給与することが大切です。
(2) 代用乳の濃度は、各社の推奨濃度に従えば問題はないでしょう。代用乳を溶かすお湯の温度は45℃程度とし、給与する時点で40℃になるようにします。溶かすお湯の温度が高すぎる(55℃以上)と、代用乳に含まれる生菌剤が活性を失ったり、蛋白質が変性したりするので気をつけます。
2) 人工乳(スターター)
(1) 人工乳は、生後数日の早い時期から給与するようにします。
(2) 人工乳をサイレージや乾草と同一のバケツで給与している事例がありますが、採食量を減らしてしまうため、お勧め出来ません。
3) 水
(1) 哺育子牛も水の給与が必要です。水の摂取量と人工乳の摂取量には密接な関連があり、新鮮な水をいつでも飲めるようにすることで、人工乳の採食量が高まり、離乳を早めることができます(図4)。
(2) バケツ哺乳をしている場合は、水をミルクと間違える可能性があり、水が第四胃に流入して消化不良を起こすことがあります。ミルクを給与してから20分経ってから水を給与するようにします。

 

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4) 乾草
(1) 哺育子牛に対する乾草給与の良し悪しは結論がでていないようです。しかし、乾草を給与しないで飼養した子牛のルーメン内容物には、麦稈や毛玉が多く含まれたことが報告されています。衛生上の観点から、100~200gの乾草を短くきざんで給与した方が良いかと考えます。

4. 環境
1) 換気
(1) 子牛が成育するために適正な温度は13℃~26℃とされています。このことから、特に冬場の換気が難しいことがわかります。冬場の換気は、換気扇を用いて臭いがこもらない程度に換気する必要がありますが、温度を維持できない場合は、ヒーターを用いる、カーフジャケットを着用させるなどして保温を行う必要があります。滑車を使ってビニールシートの屋根を下ろし、空間を狭くして、子牛の周辺の気温を保つ工夫をしている牛舎もあります(写真1)。
(2) 哺乳ロボットなどのペン飼育では、牛体に風が当たるようであれば、ペン内に板を立てたり、ハッチを設置したりするなどの工夫を行っている事例も目にします。

 

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2) 衛生
(1) 敷量をこまめにかえることが大切です。牛体が糞尿で汚れていることは、このこと自体が下痢の原因となる他、飼料摂取量の停滞を招き、発育を遅らせます。
(2) ハッチやペンから子牛を搬出した後は、必ず洗浄と消毒を行います。その際には、
① 敷量を全て取り除きます。
② 水洗いして、糞尿を取り除き、
③ 消毒効果を高めるために、乾燥させます。
④ 消毒を行う際、クリプトスポリジウムやコクシジウムなどは、極めて生存能力が高いため、熱湯消毒か、石灰乳の前面塗布が効果的です。