1.糞を洗うことの目的 摂取した飼料は2~3日後には糞として牛の体から出てきます。つまり糞の状態は乳検や旬報より速やかに摂取した飼料の結果を表してくれると言えます。また、この糞を洗う作業は酪農の現場で行うので、ボディコンディションスコア等のモニタリング同様、その場で結果を示すことが出来ます。 |
2. 糞を洗う方法 |
糞洗い機は3段のふるいに分かれています。各ふるいの網目の大きさは上段:4.7mm、中断:3mm、下段:1.5mmです。このような道具を用いなくとも、糞の内容物のみを確認する場合は、家庭用のザルでも充分に行えます。 |
3. 糞洗い結果の見方 糞洗い機で糞を洗った結果の見方は以下の2通りあります。 ① 各ふるいの内容物を見た目で評価する。 ② 各ふるいに残った内容物の割合で評価する。 ①はその内容物が、長い繊維片が多い、未消化の穀類が多い、ムチンが見られるなどで評価します。特に上段の残渣物で判断します。 ②の各ふるいの割合は固く搾って水分を可能な限り落とし、重さを量って各ふるいの割合で判断します。 結果が良い(消化具合が良好)と判断されるケース(写真3)は、上のふるいの割合が低い時です。 結果が悪い(消化具合が不良)と判断されるケース(写真4~6)は、以下の3つのケースとなります。 |
1)繊維の消化が悪い事例 通常、繊維は反芻によりある程度細かくなりルーメンで消化されて出てきますが、このケースでは長い繊維片の状態で糞に出てきています。このようなケースでは以下の原因が考えられます ① 暑熱ストレスを受けている時 あるTMRセンターの事例では、給与しているTMRの内容がほぼ同じなのに、暑熱対策の有無によ り消化具合が大きく違ったことがありました。 ちなみに写真4は非常に暑い日が数日続いた時に糞洗いを行った時の写真です。 ② 粗飼料の質が悪い ③ 乾物摂取量が低い ④ サイレージの切断長が長い 2)未消化の穀類が見られる事例 写真5では未消化の穀類が多量に見られます。このように未消化の穀類が多くみられるケースは以下の原因が考えられます。 ① 暑熱ストレスを受けている時 ② 飼料中の穀類の量が多い ③ 跛行牛が多い、飼養密度が高い時 ④ 粗飼料の給与量が少ない 写真5の牧場では濃厚飼料の給与量が多いということではなく、粗飼料の給与量が少ない(ルーメ ンマットの形成が弱い)ことが原因でした。 3)ムチンが見られる時 ムチンは、ルーメンで消化されなかった穀類が大腸で過剰発酵した時に見られます。この状態は大腸アシドーシスと呼ばれます。最近では大腸アシドーシスの牛への影響はルーメンアシドーシスよりも大きいと言われています。そのためムチンが見られる時は早急に対応すべきと考えます。写真6は暑熱時にデンプン濃度が高いTMRに加え配合飼料のトップドレスを行っている牧場で見られました。また、ムチンは洗わないと見つけられないわけではありません。写真のように糞を足で広げてみることによりムチンを発見することができます。未消化の穀類が多量に見られる糞の場合は、糞中にムチンが出ていないか、確認してみることをお勧めします |
4. 現地での事例 次に糞洗い結果からの改善事例として、オホーツクのA牧場を紹介します。A牧場は経産牛60頭のタイストール式牛舎です。飼料給与方法は分離給与であり、飼料内容はコーンサイレージ(以下CS)、ラップサイレージ、濃厚飼料です。 牛の状態に問題はなく、糞も締まっていて軟便という状態ではありませんでした。しかし、念のため糞洗いを行った結果、未消化のCSと多量のムチンが見られました(写真8)。その時の給与内容を確認すると、CSが1頭当たりなんと52kg給与されていました。牛の状態はよかったのですが、大腸アシドーシスになっている可能性が高いと判断し給与内容を以下のように変更しました。 ① CSの給与量を35kgに減らす。 ② 濃厚飼料のタンパク含量を上げる。 ③ 足りない乾物はラップサイレージで補う。 このことにより、糞の状態はかなり改善されました(写真9)。一見すると牛の状態は悪くないようでしたが、糞を洗ってみると、未消化の穀類や多量のムチンが見られ、飼料給与内容に問題があったケースでした。 |
5. 留意点 糞洗いをする際に留意すべき点は、経時的に見るということです。2回、3回と繰り返して実施することにより牧場の特徴や糞の状態の変化が分かります。季節変わり目や、サイレージの変更などがあった時に、糞を観察することをお勧めします。 また、今回紹介した糞洗いの結果だけで牛の状態全てが分かるわけではありません。摂取した飼料が効率よく牛に利用されているかどうか、牛が健康であるかどうかの判断材料のひとつとして考えており、他のモニタリングと上手く組み合わせることも必要です。 |