(1)牧草の播種時期と雑草発生量
牧草の播種は土壌水分が豊富で、雑草が少ない早春や8月中旬~9月上旬ごろに行われるのが一般的です。夏播きは春播きに比べると雑草が少なく、牧草の個体数が多い良好な草地を作ることができます。一方、春播きは夏播きに比べると雑草が多く発生することから、雑草の特性を良く知り、その対策を考える必要があります。
春播きにおける雑草対策として最も大切なことは、雪解け後、圃場に入れるようになったらなるべく早く播種を済ませることです。更新時に旺盛に生育するタデやアカザなどは1年生雑草であるため初期生育が早く、牧草の播種が遅れた場合は、これらの雑草が優占してしまいます。1年生雑草の対策として掃除刈りがありますが、牧草の播種が遅れた場合は掃除刈りの効果も低く、牧草の個体数が少なくなってしまいます。春播きの場合はできるだけ5月中旬頃までに播種を済ませ、次項で紹介するタイミングで掃除刈りを行うことが推奨されます。
(2)掃除刈りのタイミング
掃除刈りは雑草の生長点の位置によって効果が分かれます。例えばアカザやタデは生長点の位置が高いため、掃除刈りの効果が大きいですが、ヒエは生長点の位置が低いため、掃除刈りをしても再生してきます。ヒエが多く発生した場合は、対処法がないため、播き直しをする必要があります。また、ギシギシや地下茎型イネ科雑草(リードカナリーグラスやシバムギ)などの多年生雑草についても掃除刈りは効果がありません。
掃除刈りはタイミングが大切です。掃除刈りの目安は、播種後40~60日後(雑草の草丈が20~30cm程度)です。掃除刈りが早すぎると、雑草の防除効果が低いため、チモシーが再び雑草に抑圧されてしまいます。一方、掃除刈りが遅すぎるとチモシーが雑草の日陰となり、枯死する場合があります。播種後にギシギシが多く発生した場合は、一度掃除刈りしておき、秋に「アージラン液剤」や「ハーモニーDF」を散布するのが得策です。
(3)除草剤の利用
更新時の除草剤の利用については、以下の①~②の方法が挙げられます。
①グリホサート系除草剤による耕起前雑草処理
更新前草地に地下茎型イネ科雑草(シバムギ、リードカナリーグラス、レッドトップ、ケンタッキーブルーグラスなど)が多い場合は、プラウ耕による埋没処理では不十分なことが多く、耕起後に再生してきます(写真 2-1)。この場合、耕起前にグリホサート系除草剤を十分に散布し、完全に枯殺してから耕起する必要があります。グリホサート系除草剤を散布する際は、牧草や雑草が十分に伸びた状態で散布する必要があります(イネ科雑草の草丈40cm程度が目安)。地下茎型イネ科雑草の草丈が目安よりも短い状態で除草剤を散布すると、効果が不十分でこれらの雑草が再び発生してくる場合があります(写真 2-2)。
②グリホサート系除草剤による播種前雑草処理(播種床処理)
土中にギシギシやリードカナリーグラス、ハルガヤなどの雑草種子が多く眠っている場合の雑草対策として、一度雑草を発芽させた後にグリホサート系除草剤を散布し、同日~10日以内に播種を行う播種前雑草処理(同日処理)があります。同日処理のポイントは以下のとおりです。
・整地後一定期間をおき(40~60日が目安)、埋没株や雑草種子が出揃うのを待ち、グリホサート系除草剤を散布します。
・耕起から播種にかけて40~60日程度の期間があるため、土壌の種類や気象によっては表土が硬くなる場合があります。スタンド不良が予想される場合は播種量を増量します。
・泥炭土壌はグリホサート系除草剤の残効により薬害が出る可能性があるため、この方法は避けることが賢明です。ただし、客土済みで表土土砂含量が55%以上の泥炭土の場合は播種床処理が可能です。
(4)播種当年の除草剤利用
播種当年に散布できる除草剤は、「ハーモニーDF」と「アージラン液剤」が登録されています。
①「ハーモニーDF」散布の留意点
・クローバ類に対する薬害が著しいため、特にアカクローバ播種草地での使用は避けます。
・茎葉処理剤のためギシギシ類の葉が展開してから散布します。
・散布液の飛散や流出によって有用植物に薬害が生じないよう十分注意して散布します。
・散布後は直ちに専用の洗浄剤でタンクやホース内を洗浄します。
②「アージラン液剤散布」の留意点
・夏播き、秋播き草地への散布は避けます。
・当年はギシギシ類の黄化のみで翌年春に枯死します。
・秋期散布は、最終採草後に行います。
※ 本文中の除草剤は、2023年8月現在農薬登録のあるものを掲載しています。