トウモロコシ品種選定のポイント

 地域の気象条件を考慮した作付け体系を検討し、栽培や収穫・調製に無理のない品種を選定して安定生産を図ります。ここでは品種選定における4つのポイントを紹介します。
(1)熟期 【余裕をもって黄熟期収穫ができる品種を選ぶ】
 トウモロコシの収穫適期は黄熟中期~後期です。この時期に収穫すると総体乾物率が30%前後でサイレージ発酵に適した水分となり、TDN割合が70%前後の濃厚飼料に近い良質な粗飼料が得られます。
 余裕をもって黄熟期収穫するために重要となるのが「相対熟度(Relative Maturity:RM)」の選定です。RMは、トウモロコシの早晩性の目安です。数字が大きいほど晩生になります。
 晩生品種ほど草姿が大柄で多収になりますが、収穫適期までの日数がかかるため、台風による倒伏や早霜などによる減収リスクは高まります。また、寒冷な地域で晩生品種を栽培すると、積算温度が足りず黄熟期に達しなくなり、水分過多な材料となりサイレージの発酵品質が悪くなることがあります。確実に黄熟期に達する品種を選定する必要があります。

①北海道での栽培
 平年収穫時期(9月中~下旬)に黄熟後期に達するような熟期の品種を選びます。地域や気象にもよりますが、遅くても8月10日ごろまでには絹糸が50%抽出する(絹糸抽出期となる)品種を目安とします。
~ 熟期の遅い品種を選択するとどうなる?(RM75の品種を栽培する地域でRM95の品種を栽培した場合)~
 ア.同時期に播種したRM75の品種と比較して、生収量はRM95の品種の方が圧倒的に高くなります
   が、乾物収量で比較するとその差は縮まります。
 イ.この収量差の減少の理由は、水分にあります。
 ウ.晩生品種は登熟が遅いため、同時期に播種した早生品種と比較すると水分を多く含みます。
   高水分はサイレージの発酵品質を低下させるだけでなく、一部の栄養分が漏汁として排出されて
  しまう原因となります。この例からもわかるように、収量面、品質面を考慮すると、適切な熟期の
  品種を選択した方が多くの利点があります。
②都府県での栽培
 一般的に東北~高冷地ではRM90~115の早生品種が、関東や西日本ではRM110~125の早中~中生品種が多く使われています。また、西日本では二期作が広く行われており、近年では関東でも普及しています。二期作の一作目はRM110~120、二作目ではRM125~135(中生~晩生)の品種を使用することが推奨されます。
 早春~5月頃までのいわゆる早播きには低温伸長性に優れる早生から中生の品種が適します。一般的に早播きが最も収量の見込める播種期であり、RMが大きい品種ほど収量性に優れます。しかし、RMの大きい晩生品種は低温を苦手とするものが多く、早播きすると生育停滞や生育異常を起こすことがあるため播種のタイミングには注意が必要です。
 一方、6月頃以降のいわゆる遅播きの播種期には中生~晩生の品種が適します。晩生品種には熱帯系の遺伝資源が使われており、暑さや病気に強い特性があります。また、一般的に茎葉ボリュームに優れる品種が多いのが特徴です。
 早播きに適した品種を遅播きで栽培する際は注意が必要です。生育初期から高温に晒されるため短稈出穂し、思うように収量が伸びないことがあります。また、遅播きの栽培時期は病虫害の発生が多い時期でもあり、晩生品種と比較して病害耐性のレベルが低い早生品種の栽培はリスクが高くなります。
③中生の品種選定ポイント
 中生の品種は大きく分けて2つのタイプがあります。一つがデント系の両親を持つタイプです。こちらは雌穂収量の高い品種が多く、早播きすることで最もその能力を発揮します。しかし、播種が遅れると十分な生長期間を確保できず生育が貧弱になる、また刈り遅れるとごま葉枯病や、南方さび病、根腐れ病などが発生し収量が激減するという懸念があります。
 もう一つは、片親がデント系でもう片親がトロピカルフリント系のタイプです。こちらは早播きから遅播きまで幅広く対応でき、病害にも強い品種が多いことが特徴です。RM125の中では晩生に近い特性を有しているため、生育は緩やかに進みます。播種時期や収穫時期に応じて上手に品種選定しましょう。
(2)耐病性【病害に強い品種を選ぶ】
 病害が多発すると、収量や栄養価が低下するばかりでなく、茎葉や雌穂が枯れ上がり、水分が極端に低下することでサイレージの発酵品質も悪化します(表 1)。また、開封後の二次発酵も起こり易くなります。
 飼料用トウモロコシの病害として、すす紋病、ごま葉枯病、根腐病、黒穂病などが挙げられます。温暖地では「ごま葉枯病」や「根腐病」、寒冷地では「すす紋病」が多発するように、地域や天候、栽培条件によって発生する病害が異なります。病害リスクは、その地域で発生する病害に強い品種を選ぶことや、病気の発生を助長しないように肥培管理を徹底することで低減できます。当社カタログに、販売品種の主要病害に対する抵抗性程度を記載していますので、ご参照ください。
 病害に関しては別稿「トウモロコシの主要病虫害」もご参照ください。

(3)耐倒伏性【倒伏に強い品種を選ぶ】
 台風の常襲地帯や特に風の強い地域では、耐倒伏性に優れる品種の選定が重要です。倒伏すると機械収穫できず減収になるばかりでなく、登熟が進まないことによるTDN収量低下、土壌混入によるサイレージ品質の低下などにつながります(表 2)。土砂の付着はサイレージ品質の劣化にもつながります。
 トウモロコシの耐倒伏性は、根張りや着雌穂高、草丈との関係が深いので、これらの点にも注目して品種を選ぶことが重要です。

(4)収量性【畜種で選ぶ(実・茎葉の多少)】
 品種によって茎葉多収なものと子実多収なものがあります。乳牛には産乳性が良く配合飼料を節約できるので高カロリー型が好まれますが、肉用繁殖牛には太り過ぎによる繁殖障害が心配されるので、晩生で茎葉割合が高く乾物多収な品種が使いやすいとされています。
 収量には生草総収量、乾物総収量、TDN収量がありますが、北海道においてはTDN収量への着目が高いようです。
また、都府県においては早生品種の方が晩生品種より子実割合が高い傾向があり、TDNが高く、栄養価の高いサイレージが期待できます。