(1)病害
①ごま葉枯病
淡褐色の楕円形の小斑点が下位葉から上位葉へと進展し、葉枯れを引き起こします。葉身だけでなく葉鞘や苞葉にも発生し、多発した場合には株全体が枯れ上がり壊滅的な被害を受けることもあります。病徴は絹糸抽出期以降に発生しやすく、高温多湿な環境や肥料切れの場合に増加します。
・防除法
抵抗性品種を利用し、過度な連作は避けます。また、肥切れの起こらないような肥培管理や適正な栽植密度を守ること、適期に刈り取りを行うことなどが重要です。
②すす紋病
茶~灰色の紡錘状の病斑が生じます。冷涼多湿条件で発生が増加し、激発すると全体が枯れあがり、TDN収量の低下、サイレージ発酵品質の低下を招きます。特に北海道や東北地方で注意すべき病害です。絹糸抽出期以降の発生が多く、早期に発生するほど被害程度は甚大です。曇天が続き、その後多湿になった時に発生しやすくなります。
・防除法
抵抗性品種を利用し、過度な連作を避け、適切な肥培管理により作物を強健に育てることが重要です。また、夏期以降に発病が増加するので、多発地帯では刈り遅れに特に気を付ける必要があります。また、すす紋病に対しては殺菌剤「プロピコナゾール乳剤」が飼料用トウモロコシで農薬登録されており、収穫7日前まで2回使用できます。初発の病斑を確認したら速やかに散布します。
③根腐病
雌穂の垂れ下がりや茎の空洞化による地際部からの折損、倒伏が発生します。生育後期に大雨に遭い、その後高温条件になると多発することが多く、特に黄熟後期以降に茎葉が急激に枯れ上がり、減収につながる場合があります。水田転換畑などの排水条件の悪い圃場での栽培、未熟堆厩肥の多投などにより発病が助長されます。また、土壌が過湿・湛水にさらされることによって水中遊泳性の胞子(游走子)が圃場内に広散し、被害程度が大きくなることがあります。
・防除法
抵抗性品種を利用し、未熟堆厩肥の多投を避け、排水良好な圃場で栽培を行います。また、連作を避け、黄熟期に適期刈りを行うことにより被害を軽減することができます。
④黒穂病
高温や旱魃などで多発します。穂や稈などに発生し、罹病部は異常肥大し、瘤状になります。瘤は初めのうちは白色の膜で包まれていますが、後に破れて黒い粉(厚膜胞子)を飛散させます。
・防除法
抵抗性品種を利用し、連作を避け、多発した場合は3年以上の輪作を行います。また、窒素肥料の多投は避け、植物体を健全に育てることが重要です。厚膜胞子は堆厩肥にしても完全には死滅しません。
⑤さび病・南方さび病
葉や葉鞘、苞葉を侵す病害で、さび病では赤褐色~茶色、南方さび病ではオレンジ~赤褐色の小点を生じます。この小点はいずれ破れて、中から粉状の胞子が飛散します。
さび病は葉の両面に病徴が現れ、冷涼多湿条件で発生し、北海道、東北での発生が顕著です。一方、南方さび病は葉の片面にのみ病徴が現れ、高温多湿条件で多発します。九州での被害が甚大ですが、年によっては一般地まで北上することもあります。激発した場合の収量低下は甚大です。
・防除法
さび病・南方さび病ともに抵抗性品種の利用が第一です。特に、西南暖地において晩播・二期作栽培を行う際には、南方さび病抵抗性品種を選ぶことが重要です。
⑥苗立枯病
九州を中心に各地で発生している発芽不良や出芽後の枯死を引き起こす病害です。幼苗の地際部に腐敗が見られることもあり、苗が徐々に萎縮し枯死に至ります。発生要因は多岐に渡り、ピシウム菌、フザリウム菌、リゾクトニア菌などの病原菌の関与に加え、未熟堆厩肥の多投、春先の低温、大雨や長雨による多湿など、複合的な要因で発生すると考えられます。
・防除法
未熟堆厩肥の多投を避け、排水良好な圃場で栽培を行います。殺菌剤による種子消毒や病害発生の少ないとされる品種の利用も有効と考えられます。
(2)虫害
①コメツキムシ類(ハリガネムシ)
トウモロコシの発芽後から稚苗期にかけて、幼虫が種子や茎の地下部を食害します。発芽不良になり、発芽しても葉が黄変萎凋しやがて枯死します。幼虫の期間が2年以上あるので、2年目のトウモロコシ栽培にも被害をもたらすことがあります。
・防除法
イネ科作物が宿主になるので、特に牧草跡地では播種前に残渣を取り除きます。発生地では、播種量を多くします。発生が懸念される場合は、播種前に殺菌剤を塗抹処理します。幼虫期間が長いので、前年に多発した圃場にも同様の処理をします。未熟堆厩肥の施用を避け、圃場周辺を除草します。
②タネバエ
北日本での発生が顕著です。種子が水分を吸収し膨軟になってくると、幼虫が種子を食し発芽不良となります。種子内部に体長10mm位の白いウジがいます。成虫は植物残査や未熟堆厩肥などの腐敗臭に誘引されるため、有機質肥料を利用した場合や牧草の鋤込み後で被害が多くなります。
・防除法
未熟堆厩肥の施用を避けます。完熟堆厩肥を土壌に鋤き込んだ後、一定期間たってから播種します。コムギ、牧草跡地で発生が懸念される場合は、播種前の種子への殺虫剤の塗抹処理や殺虫剤の土壌散布が有効です。
③ネキリムシ(タマナヤガ、カブラヤガの幼虫等)
主に稚苗の地際部を食害し、夜間土壌中から出現し茎葉を食害します。幼虫は大きくなると40mmに達します。被害にあった個体の株元を掘り返すと多くの場合幼虫が見つかります。一匹の幼虫が数株の個体に決定的な被害を与えるので、発生密度の割に被害が甚大です。卵は作物や雑草の枯れた茎葉に産下されるため、前作の除草や栽培管理がおろそかになった圃場では被害が多くなります。
・防除法
イネ科雑草など発生源となる圃場周辺雑草を除草します。被害が発生する圃場では殺虫剤の土壌表面散布が有効です。
④ショウブヨトウ類
主に北海道、特に草地更新後や草地付近のトウモロコシに多く発生します。体長20~30mm、体色は乳白色で3対の紫褐色の縦線がある幼虫が地際部から茎に侵入、生長点を食害し、被害を受けた幼植物は萎凋後枯死します。1頭当たり5~8本のトウモロコシを加害します。5月中旬に幼虫が孵化し、7月上旬には蛹化するため、その頃には被害もなくなります。
・防除法
当該草地の6月中旬における被害茎(心葉の萎凋・枯死)が2割程度以上あると翌年のトウモロコシが大きな被害をうけるので、成虫発生期(7月下旬~9月中旬)以前に反転・耕起します(産卵防止)。または翌年に非寄主作物(てんさい等)の導入も有効です。
⑤アワノメイガ
特に都府県で発生します。幼虫で越冬、春先に蛹化して成虫になり、葉の裏面に産卵します。孵化した幼虫は葉の表面の片側から食べるので、葉の薄皮が一枚残ったような食痕を残します。生育初期は未展開葉や葉鞘への侵入が多いですが、生育が進むと雄穂や雌穂へ侵入し、侵入口付近に大量の糞や破砕くずを排出します。食害が進むと稈や雌穂柄が折損し、収穫ロスに繋がる場合があります。また、侵入口においてカビが発生し、品質低下を招く恐れもあります。
・防除法
終齢虫は侵入した稈の中で越冬するため、収穫後は残渣を処理し、耕起することで翌春の成虫発生を防ぎます。飼料用トウモロコシでは殺虫剤もいくつか登録されていますが、稈に侵入後は効果が低下します。
⑥ツマジロクサヨトウ
2019年に国内で初めて発生して以降、全国的に確認されています。温暖な気候を好み、夏場にかけて北上します。場所によっては春先から散見されますが、1年に数回数世代交代するため、夏場の被害が甚大になります(特に夏播きの発芽~初期生育時)。幼虫は主に柔らかい組織を好み、生長点付近を食害します。早い個体では出芽直後に卵を産み付けられ、侵入されます。初期の食害痕は、半透明の丸い窓のような穴で、進行すると葉の中肋と垂直に複数の穴が開きます。被害が拡大すると、葉が切断され、切り口がのこぎり状になります。甚大な食害は収量の低下に繋がることが懸念されるため、早めの防除が重要となります。
・防除法
早期発見が重要です。殺虫剤を散布することで被害を抑えることができます。飼料用トウモロコシで使用できる農薬が複数登録されています。
参考資料
吉田信代(2020). 飼料用トウモロコシの害虫と対策. 牧草と園芸. 第68巻. 第4号 P5-10
※注 本文中の殺菌剤は、2023年8月現在農薬登録のあるものを掲載しています。