乾乳期の重要性

 乾乳期は単なる休養期間ではありません。 乳牛に発生する疾病の多く(約6割)は分娩前後に発生します。これらの疾病は、マネジメント次第で発生を防ぐことが可能であり、乾乳期を上手に飼うことは、時期乳期の生産性アップにも繋がります。乾乳期は、泌乳期の終わりではなく、次回泌乳の始まりと捉えて下さい。

乾乳期の重要性1

<ストレスからの解放>
  牛の1日の基本的行動時間を合計すると、約21時間になります。泌乳期間はこれに、搾乳に要する時間(約4時間)が加わり、合計は25時間となります。泌乳期間にはこの1時間がオーバーストレスとなり、下図行動のいずれかを犠牲としています。乾乳期は、乳牛にとって基本的行動面からもストレスから解放され、リフレッシュする重要な期間です。

乾乳期の重要性2

<ルーメン機能の回復>
   生産活動により酷使したルーメン絨毛を一旦、退縮させ、ルーメンをリフレッシュ、分娩前に再び絨毛を発達させ、分娩後の泌乳開始に備えることが重要です。絨毛が発達するためには、炭水化物(VFA源)の給与が必要となります。乾乳期に給与する濃厚飼料は、多すぎても少なすぎても良くありません。

乾乳期の重要性3

<蹄にかかるストレス>
  分娩前には自身の体重の他に、約70㎏もの重量が後肢に掛かります。環境要因・管理要因からのストレスは極力、軽減させるようにすることが大切です。乾乳牛の施設は、充分にクッション性があり、自由が効いていることが望まれます。

乾乳期の重要性4

<乳腺組織の回復・乳房炎治療>
乳腺組織の退行萎縮と増殖再生に必要な期間は50~70日と言われています。
   ①乳腺胞の退行萎縮(25~30日)
   ②乳腺胞の安定状態(乾乳開始から30日以降)
   ③乳腺胞の増殖再生と泌乳開始(分娩前15~20日)
乳房炎の新規感染は、乾乳後の乳頭口が完全に閉じるまでの間(2~3週間)と、分娩前、泌乳開始へ向けて乳頭口が開いてくる期間(分娩前約2週間)に、危険性が高くなります。急速乾乳(一発乾乳法)と共に、乾乳軟膏を注入した後にティートシーラント(乳頭保護剤)による乳頭の保護も乾乳期の乳房炎新規感染予防に有効です。

乾乳期の重要性5

<胎児の急速な成長・次回繁殖の準備>
   胎児の生時体重の60%は、クロースアップ期に成長します。胎児の成長に伴い、ルーメンが圧迫されるため、乾物摂取量が低下していきます。しかしながらこの期間は、胎児の成長、ルーメンの再発達、乳腺の再発達等に栄養が必要とされるため、栄養濃度を増し、適切な栄養量を供給する必要があります。

乾乳期の重要性6

   分娩後の初回発情、2回目の発情の卵胞は、乾乳期に発育し始めます。乾乳期に栄養が不足している場合、初回発情に影響します。更に乾乳期の管理が悪く、分娩後の立ち上がりが悪い場合は、2回目以降の発情に影響します。 

乾乳期の重要性7

<疾病の予防>
   乳牛に関わる代謝病は多く存在しますが、そのほとんどは分娩前後に発生する周産期病であり、それらは相互に関連しています。乾乳期は単なる休養期間ではなく、次回泌乳の始まりです。分娩前後の飼養管理を如何に行うかが、周産期病を予防し、生産性を向上させる大きな鍵となります。

乾乳期の重要性8
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