乳房炎の原因と対策 乳房炎には様々な原因があります。これを大きく分類すると、①環境衛生、②牛の健康状態、③搾乳手順や搾乳機械の問題に大別されます。我々は①については主に牛床の衛生に気をつけています。②についてはモニタリングを行い、コンディションを良くし疾病の少ない飼養管理を目指しています。③については搾乳立会を実施することで搾乳手順の改善策を提案してきました。しかし、一般的に良いと言われている搾乳手順が、本当に良い射乳を導いているのかを確認する方法はありませんでした。 |
ラクトコーダについて ラクトコーダは、ミルクチューブにバイパスさせて牛乳の流れるスピード(流速)をモニタリングする測定機器です。これは、射乳が上手くいっているかどうかをグラフ(図1)から視覚的に観察できるツールです。そこで、ラクトコーダを導入し、射乳状況をモニタリングすることで、改善に向けた提案を実施しています。 |
今回はラクトコーダを用いたモニタリングの事例を重ねることで分かってきた、良い射乳を実現するためのポイントをいくつかお伝えします。 |
事例1 よい射乳が実現している事例 図2は、私がこれまでにモニタリングした中で、最も良い結果です。良い射乳を実現している場合、グラフは傾斜が急な台形の形になります。モニタリングした数頭の牛の結果を重ねて示していますが、多くの牛がきれいな台形の形を描いています。1日の平均乳量は32kgでしたが、搾乳は3分半程で終了しています。このような射乳が実現できているのは、以下のポイントをおさえているためです。 ① 前搾りから装着までの時間が約1分であり、バラつきがとても少ない。 ② 離脱が非常に早く、過搾乳していないため、乳頭が傷んでいない。その結果、しぶい(射乳が遅く搾り切りが悪い)牛が1頭もいない。 ①については良く言われることですが、私はバラつきが無いことが最も大切であると感じるようになりました。バラつきの許容範囲は、全ての牛の前搾りから装着までの時間が30秒以内に収まることと考えています。バラつきなく搾乳を実施できている牧場はほとんどありません。特にパーラー搾乳では、よほど意識しない限り難しいことです。②については「しぶい牛が多いから、搾乳時間がかかるのは仕方がない」と考える酪農家さんもいますが、これは間違いです。搾り切りを意識するあまり、しぶい牛が多くなってしまうという悪循環に陥っている事例は少なくはありません。 |
事例2 しぶい牛が多くなってしまっている事例
事例2では、搾り切りを気にしすぎるあまり、離脱のタイミングが遅れしぶい牛ばかりになってしまっている結果を紹介します。この牧場の1日の平均乳量は32kgで、事例1の牧場と同じ乳量です。しかし、図3の結果からは、最大流速が遅く、搾乳に非常に長い時間がかかっていることが分かります。ほとんどの牛で搾り切りが悪いため、流速が0.65kg/分を下回っているにも関わらず、残乳が多く離脱できない状況です。流速が遅くなると、乳頭先端にかかる搾乳システムの真空圧が高まるため、乳頭先端を痛めてしまい、このこともまた乳房炎の原因となります。この牧場は乳房炎に頭を抱えていましたが、一律に離脱のタイミングを早めるような提案はできませんでした。残乳が多すぎて、乳房炎の原因を作ってしまう可能性があるためです。このような状況を招かないためには、以下のポイントを意識する必要があります。 |
事例3 搾乳前の刺激が不十分である事例 最後に、搾乳前の刺激が不十分である場合、どのような結果になるのかを紹介します。図4の結果となった事例では、前搾りを実施していないわけではないのですが、軽く2回程度行った後に、装着していました。また、その程度には搾乳者によってばらつきがありました。その結果、射乳を開始した後に一度止まり、その後再び射乳が始まるという曲線を描きます。これは、搾乳を開始して間もなく過搾乳状態となるため、乳頭口を痛める原因になります。「前搾りは必要ない」という酪農家さんもおりますが、私はできるだけ推奨したい搾乳手順であると認識しています。 |
まとめ 3つの事例から、よい射乳を実現するためには、これまでも推奨されていた搾乳手順を順守することが近道であると分かります。特に大切なポイントは、以下の点であると考えています。 ① 前搾りをしっかりと行う(強く5回)。 ① 前搾りから装着までの時間のバラつきをなくす。 ② 離脱は適切なタイミングになるよう心掛ける。 付け加えますと、それらはどの手順においても牛によってのバラつきがないよう、決められた手順、タイミングが重要であることは間違いありません。 |