コーンサイレージにおける乳酸菌の役割と使い分け

 トウモロコシは飼料作物の中で栄養価や収量性の優れた作物であり、北海道の一部(栽培限界地帯)を除く全国で利用されている作物で、その殆どはサイレージとして給与されています。トウモロコシはサイレージ発酵しやすい作物ですが、発酵品質改善のために多くのサイレージ用乳酸菌が市販されています。乳酸菌であれば、どれも同じだと思われがちですが、使われている乳酸菌の種類によって目的が異なります。今回は、サイレージ用乳酸菌の種類と目的に応じた使い分けをご紹介します

(全てのデータは、増子孝義、齋藤敏郎(2002) 乳酸菌製剤、酵素剤および活性水を添加したトウモロコシサイレージの給与が採食量、消化率および栄養価に及ぼす影響、平成11年度~平成13年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(1)) 研究成果報告書、31~38ページより引用しました。)

サイレージに利用されている乳酸菌の種類
 一口に乳酸菌といっても様々な環境に多種多様な乳酸菌が存在します。ヨーグルトやチーズなど乳製品の発酵に関わるもの、人や動物の腸内に存在するもの、漬物など植物の発酵に関わるものなど用途や環境に応じて適した乳酸菌の種類は異なります。以下に日本でサイレージ用として市販されている乳酸菌の種類を整理しました。

日本で流通しているサイレージ用乳酸菌の種類.jpg

 発酵促進タイプの乳酸菌は、とにかくサイレージのpHを下げるのが目的なので、求められる特性としては次のようなことが挙げられます。①ホモ型発酵を行い、糖から乳酸を最大限に生産する。ヘテロ型は糖から乳酸以外の物質も作るので、pHが下がりにくく、炭酸ガスも出すことから養分ロスもある(下図)。 ②耐酸性があり、pH4.0までできるだけ早く低下させる。 ③牧草・飼料作物に含まれている糖分(ブドウ糖、果糖、ショ糖など)を発酵することかができる。 ④生育温度範囲が広い(日本は南北に長く、気温の季節変動が大きい)。⑤低水分含量の材料にも生育することができる(ロールラップサイレージは水分が低い場合がある)。
 二次発酵抑制タイプの乳酸菌は、雑菌の中でも酵母やカビを抑えて二次発酵を抑えることを目的としているため、酵母・カビに抗菌作用のある酢酸を出すという特長がある一方で、ヘテロ型発酵であるという短所もあります。

乳酸菌のホモ型発酵とヘテロ型発酵.jpg

乳酸発酵促進タイプ乳酸菌の効果
 トウモロコシは他の飼料作物に比べて乳酸発酵しやすい材料なので、無添加でもpHが低下し、良好な発酵品質になる場合が多いのですが、乳酸菌を添加する意味はないのでしょうか? トウモロコシサイレージの栄養価に着目した大学での研究成果1)を一部抜粋してご紹介します。弊社の旧製品(スノーラクトLアクレモ)で実施した試験ですが、サイレージの発酵品質は、無添加、アクレモ添加とも大きな差はなく、どちらも良質でした。

トウモロコシサイレージの発酵品質.jpg

 しかしサイレージの化学成分やヒツジを使った消化試験では、アクレモ添加サイレージの方が粗蛋白質、粗脂肪、NFE(可溶無窒素物:デンプン、単少糖など)含量や消化率が高く、栄養価(TDN)は無添加に比べて、改善される傾向を示しました。

トウモロコシサイレージのTDN.jpg

 サイレージはpHを低下させることで雑菌の増殖を抑えることができます。実際に測定はしていませんが、おそらくアクレモ添加サイレージはpHが速やかに低下して雑菌の増殖を抑えたのに対して、無添加サイレージはゆっくりpHが低下したために、低下するまでの間は雑菌が活動して、タンパク質、脂肪、デンプンなどを消費して栄養価のロスに繋がったものと思われます。

トウモロコシサイレージのpH低下のイメージ図.jpg

 2012年から弊社のサイレージ用乳酸菌はサイマスター(ラクトコッカス・ラクティス、ラクトバチルス・パラカゼイ)という商品になっていますが、従来の乳酸菌に比べて、発酵初期段階の増殖に優れた乳酸菌を組み合わせているので、同様の効果が期待できるものと思われます。サイレージの嗜好性、食い込み、栄養価の改善を重視する場合は、乳酸発酵促進タイプの乳酸菌(サイマスターLP、AC)をお勧め致します。

参考文献
1)王ら(2009)日本草地学会誌、54巻4号、P311-316

二次発酵抑制タイプ乳酸菌の効果
 下表は飼料作物に付着している微生物数を調査したものですが、トウモロコシやソルガムなどには多くの酵母や糸状菌(カビ)が付着しています。これらの多くはサイレージのpHを下げることで減少するのですが、一部の酵母は酸性条件に強く、pHが下がっても生き残り、開封後に空気が侵入することで一気に増殖してサイレージを変敗させます。これがサイレージの二次発酵です。従って、乳酸発酵促進タイプの乳酸菌でpHを下げるだけでは十分に原因となる酵母を抑制できないのです。

数種の材料植物に付着している微生物数.jpg

 サイレージで発生する有機酸のうち、酢酸や酪酸は酵母やカビに対する抗菌作用があるので、発酵品質が悪くなる(酢酸や酪酸含量が多くなる)と二次発酵しにくくなります。一方、乳酸主体の良質なサイレージは抗菌作用のある酢酸や酪酸が少ないために二次発酵しやすくなります。従って牧草サイレージに比べて発酵品質が良くなりやすいトウモロコシサイレージは、二次発酵しやすい材料だと言えます。
 従来の二次発酵抑制目的で利用されている乳酸菌は、ラクトバチルス・ブクネリという菌種です。大きな特徴は、発酵初期に乳酸と酢酸を生成しますが、サイレージ中に利用できる糖がなくなると、乳酸を酢酸に変換し始めます。この酢酸が効くのですが、乳酸が減ることでサイレージのpHが高くなります。ブクネリタイプの乳酸菌は、酢酸は多く作るものの、pHを上げてしまう点が欠点でした。弊社では、日本で初めてラクトバチルス・ディオリボランスという菌種を採用した「サイマスターSP」という乳酸菌を開発しました。この乳酸菌は、酢酸生成をしますが、乳酸を酢酸に変換しません。pHが低く酢酸が多い、二次発酵しにくいサイレージが出来上がります。

サイマスターSPを添加したトウモロコシサイレージの発酵品質.jpg

 上記サイレージを25℃環境下で、サイレージの温度が30℃になるまでの時間での比較で、二次発酵の程度を比較しました。サイマスターSPを添加すると、温度上昇までの時間が非常に長くなり、二次発酵を抑制することがわかります。酢酸が増えることで、サイレージは若干酸っぱくなりますが、二次発酵でお困りならサイマスターSPが最適です。

二次発酵試験の結果.jpg