サイレージの二次発酵対策

  サイレージの二次発酵は、古くから問題視されていながら、いまだに現場で散見される課題です。サイレージが二次発酵してしまうと、発熱に伴ってサイレージの栄養価が下がり、嗜好性も低下して、十分に食込めなくなります。また、TMRの発熱はサイレージに含まれている酵母などの雑菌が原因となるので、サイレージの二次発酵はTMRの品質にも影響します。特に粗飼料の食い込みが落ちてくる暑熱時期に、サイレージが二次発酵してしまうとその影響は更に大きくなります。そこで、サイレージの二次発酵を正しく理解していただくとともに、その対策を紹介させていただきます。

サイレージの二次発酵とは
  サイレージが腐るという現象には、大きく分けて2種類あります。一つは酪酸発酵で、サイレージ中の酪酸含量やVBN含量(揮発性塩基態窒素:主にアンモニア態窒素)が高くなることで、強烈な悪臭とともに嗜好性や栄養価が低下する現象です。この原因になるのは酪酸菌と呼ばれる雑菌で、酸素のない嫌気条件で増殖するので、サイレージの踏圧や密封だけでは抑制できませんが、酸性条件に弱いので、pHを下げることで抑えることができます。もう一つの腐敗である二次発酵の原因は酵母やカビで、酸素がないと増殖できませんが、特に酸性条件に強い酵母が原因となるので、pHが下がっても生き残ります。サイレージで生成される有機酸(乳酸、酢酸、酪酸)には抗菌作用があるので、これら雑菌を抑制することができますが、その抗菌作用は有機酸の種類によって異なります。

サイレージで生成される有機酸の特性.jpg

 乳酸は他の酢酸や酪酸に比べてpHを下げる力が強いので、酪酸菌を抑えることは出来ますが、耐酸性酵母には効果がありません。一方、酢酸や酪酸はpHを下げる力は弱いものの、酵母やカビには強い抗菌作用を示します。一般的にサイレージ中の有機酸含量は、乳酸発酵が進むとサイレージ中の酢酸や酪酸含量は少なくなり、乳酸が少なくてpHが下がらなければ、酢酸や酪酸含量は高くなります。これらのように、酪酸菌と酵母・カビは、生育環境、有機酸に対する感受性が異なるので、酪酸発酵と二次発酵を同時に抑制するのは非常に難しいのです。これで乳酸発酵しやすいトウモロコシサイレージで二次発酵が問題になる理由もご理解いただけると思います。
現在のところ、サイレージの二次発酵を抑制する決定的な解決法はありませんが、酵母やカビを抑制するポイントは、空気(酸素)ということになります。サイロ内に酸素がなければ、酵母やカビの菌数は少なくなります。また、開封後のサイロ内への空気の侵入を極力少なくできれば、酵母の増殖を最小限に抑えることができます。既にご存知のことも多いと思いますが、ちょっとした心がけが二次発酵を抑えることに繋がると思いますので、今一度、以下のポイントをご確認下さい。

サイレージ調製時に出来る二次発酵対策
 ①細切
 二次発酵抑制において原料の切断は重要なポイントです。切断長もそうですが、今回は切れ方について紹介します。以下の写真は、きれいに切れているものと切れ方が悪いトウモロコシサイレージの写真です。切れ方が悪いと繊維が裂けたような状態になりますが、こうなるとフカフカした状態になるので、踏圧が効きにくくなって詰め込みが十分ではなくなります。詰め込み密度が低いと、残存する空気が多いということになるので、二次発酵しやすくなります。このような状態を避けるためには、ハーベスターの刃の調整が重要になります。切れ味が悪くなる前にしっかりと刃の調整を行いましょう。

トウモロコシサイレージの細切.jpg

踏圧(何で踏むか?)
 踏圧作業に使用される機械として、ホイール型のローダーとクローラ型のバックホーがあります。バックホーは機械の重量が重いので、踏圧に向いていると思われるかもしれませんが、クローラ型は広い面積で支えているために、材料と接している部分の圧力が低くて、踏圧の効率が悪いことが分かっています。一方、ホイール型は軽い機体が多いですが、タイヤ4点で支えているので、クローラ型よりもはるかに接地圧が高いのです。踏圧にはホイール型の機械を使用することをお勧めします。

③踏圧(薄く広げて踏む)
 ダンプなどで運んできたサイレージ材料をバンカーやスタックサイロで降ろした後、広げながら踏圧しますが、この時の広げ方にポイントがあります。厚みがありすぎると、圧力が高い機械で踏んでも、圧力が届かないのです。その目安は厚さ30cm以下です。薄く広げるためには、緩やかで長いスロープを作ることと、ダンプ複数台分をまとめてやらないことが重要です。ダンプを待たせてでも踏圧を優先することが求められます。

原料の拡散厚を30cm以下にする.jpg

④踏圧(踏圧時間を確保する)
 近年はハーベスターの収穫スピードが非常に速くなり、踏圧が間に合わないケースが増えています。どんなに熟練したオペレーターでも、材料を運んでくるダンプの間隔が5分以下になると材料を広げるので精一杯となり、十分な踏圧が出来ません。運搬間隔が短すぎる場合は、詰め込むサイロの本数を増やすなどの方法で(2本同時詰め)、踏圧時間を確保するようにしましょう。

⑤夏場開封用の間口の小さいサイロを作る
 二次発酵は、気温の高くなる春から夏にかけて問題となることが多いと思います。全てのサイロで出来ればいいですが、夏場開封するサイロだけでも間口の小さい(低い)バンカーやスタックサイロにすると、二次発酵のリスクが低減できます。間口が小さいと、サイレージを厚く取り出すことになります。空気はサイレージ取り出し面からサイロ内に侵入するので、厚く取り出すことが出来れば、二次発酵する前に給与することが出来るのです。

⑥ビニール中仕切り
 塔型や地下サイロで開封後の空気の侵入を防ぐ方法として、ビニールの中仕切りを入れていく方法が紹介されています。山形県畜産試験場によると夏場でも7日分の取り出し量ごとに中仕切りを行うことで、品温の上昇やサイレージの廃棄を防止できると報告されています。サイレージを詰め込む時に、一定間隔でビニールの中仕切りを入れていくことで、サイロ開封後の空気の侵入がビニールで遮断されるので、奥まで二次発酵することが抑制できます。

各サイロの品温と廃棄率.jpg

⑦乳酸菌
 従来の二次発酵抑制目的で利用されている乳酸菌は、ラクトバチルス・ブクネリという菌種です。大きな特徴は、発酵初期に乳酸と酢酸を生成しますが、サイレージ中に利用できる糖がなくなると、乳酸を酢酸に変換し始めます。この酢酸が効くのですが、乳酸が減ることでサイレージのpHが高くなります。ブクネリタイプの乳酸菌は、酢酸は多く作るものの、pHを上げてしまう点が欠点でした。弊社では、日本で初めてラクトバチルス・ディオリボランスという菌種を採用した「サイマスターSP」という乳酸菌を開発しました。この乳酸菌は、酢酸生成をしますが、乳酸を酢酸に変換しません。pHが低く酢酸が多い、二次発酵しにくいサイレージが出来上がります。

サイマスターSPを添加したトウモロコシサイレージの発酵品質.jpg

 上記サイレージを25℃環境下で、サイレージの温度が30℃になるまでの時間での比較で、二次発酵の程度を比較しました。サイマスターSPを添加すると、温度上昇までの時間が非常に長くなり、二次発酵を抑制することがわかります。酢酸が増えることで、サイレージは若干酸っぱくなりますが、二次発酵でお困りならサイマスターSPが最適です。

二次発酵試験の結果.jpg

サイレージ調製後に出来る二次発酵対策
①細断型ロールベーラーによる再密封
 近年普及している細断型ロールベーラーは、二次発酵対策に有効です。梱包サイズが小さくなるので、給与する時に開封できるようになり、空気との接触が最小限に抑えられます。最初から細断型ロールベーラーでサイレージ調製できれば一番良いのですが、作業スピードはバンカーやスタックサイロ調製よりも遅いので、大規模調製では使いにくい機械です。一方で、一度バンカーやスタックサイロで調製したサイレージを、冬場に開封して、夏場使用する分のサイレージだけ細断型ロールベーラーで再密封するという技術があります。冬場であれば時間に余裕があるので、作業スピードは問題なくなります。ラップフィルムなどの資材代や機械代などのコストはかかりますが、二次発酵対策としては有効と思われます。

②開封後のサイレージ取り出し面に使用する二次発酵抑制資材
 サイレージの二次発酵は、サイロを開封した後、空気が侵入することによって起こるので、空気と直接触れるサイレージの取り出し面が最も二次発酵しやすくなります。この開封後のサイレージ取り出し面に使用する資材として、「サイロ消防団」「サイロ見張番」という商品を販売しています。

二次発酵抑制資材の使い方.jpg

 サイロ消防団は、プロピオン酸カルシウムを溶かした液状の商品です。プロピオン酸には酵母やカビに対する抗菌作用があるので、バンカーやスタックサイロの取り出し面1m2あたりサイロ消防団を200mlの割合で噴霧することで、二次発酵の進行を遅らせる効果があります。バンカーサイロのトウモロコシサイレージにサイロ消防団を処理して、3日後の酵母菌数を調査したところ、無処理に比べて菌数は1/30でした(下図)。また、スタックサイロのチモシーサイレージでも調査したところ、処理から2日後に写真左側の無処理には中段に白いカビが点在していましたが、右側のサイロ消防団処理にはカビは発生していませんでした(下写真)。

酵母菌数.jpg

 サイロ見張番は、カラシ油の香気成分(アリルイソチオシアネート)の抗菌作用を活用した商品です。中にカラシ油成分を浸み込ませたビーズが入った分包になっていて、この分包から放出されるカラシ油ガスによって、酵母・カビの増殖を抑制し、二次発酵を遅らせることができます。サイレージ取り出し面1m2あたりサイロ見張番を2個の割合で配置し、ガスを充満させるためにシートをかけます。塔型、地下、半地下タイプのサイロで使いやすい商品になります。タワーサイロのトウモロコシサイレージ(試験期間8~9月)で効果を検討してみました。サイレージ取り出し直後の取り出し面が、1日空気にさらされることで二次発酵が進み、無処理区はpH3.7からpH4.4まで上昇して明らかに変敗していますが、サイロ見張番処理によってpHの上昇が抑えられ、変敗が抑制されていました(下左図)。このサイロ見張番の特徴を利用して、TMR飼料の発熱抑制を検討しました。TMR飼料はミキサーにより混合するので、空気が入り込んで発熱しやすくなりますが、サイロ見張番を処理することで、発熱が抑制されます(下右図)。実際にTMRセンターから農家に供給するTMR飼料にサイロ見張番を処理して、給与するまでの変敗を抑えている事例もあります(下写真)。

二次発酵によるトウモロコシサイレージpHの変化.jpg
使用事例.jpg