暑熱対策(村田牧場、信田牧場)

1.はじめに
一昨年は記録的な猛暑に見舞われ、秋以降もその影響を引きずり年間生産乳量も減少しました。昨年も一昨年ほどではないものの、暑熱が厳しく、特に道内は、8月お盆過ぎの長雨の湿気により、乳房炎が多発した牧場が多く、道内の比較的涼しい根釧においても、ファンを導入する牧場が増えてきています。
今回は、北海道における暑熱対策の事例について紹介いたします。

2. 乳牛の適温
搾乳牛の適温は5~10℃で、人のそれと比べるとかなり低いです。乳牛は第一胃で飼料を分解する際、大きな熱生産があるため、寒さには強いが暑さに対しては非常に弱い動物です。
暑熱の影響を見るには、温度・湿度指数(THI)という指標があります(表1)。これは温度と相対湿度から算出されるものです。例えば、北海道の夏の平均相対湿度が75%、温度は24℃でTHIは73と算出されます。このように人間がさほど暑さを感じないような温度でも、乳牛はヒートストレスを受けます。
ファンを回し始める温度を設定する際も、まだ、肌寒いからと躊躇される人もいますが、人間が肌寒いと感じる15℃くらいからファンを回していく必要があります。

 

暑熱対策①

 

3.暑熱の影響
1) 泌乳量の低下
日本飼養標準(2006年版)によると、国内の西南暖地延べ4,000点以上のデータから、初産牛では平均気温が30℃、経産牛では26℃を超えると適温下より10%以上乾物摂取量が低下するとあります。10%低下というと、およそ2kgの乾物摂取量低下ということになります。乾物摂取量1kg低下すると、乳量は約2kg低下すると言われているので、26℃を超えると、約4kgの乳量の低下ということになります。
2) 乳脂率の低下
暑熱時には第一胃内のpHが低下し、その結果、乳脂率が低下します。
第一胃内のpHが低下する要因としては、呼吸が荒くなることにより反芻回数が減ります。また、体外に排出される二酸化炭素が増え、血中の二酸化炭素の濃度が低くなります。それを補うために腎臓から重炭酸イオンが排泄され、この結果、第一胃内のpHを中和する働きのある唾液量が減少します。
3) 跛行の増加
酪農家を巡回していると、9月~10月に跛行が増加します。その要因としては、乳牛は暑熱時に、人間で言う素足にあたる真皮の部分に炎症を起こします。その結果、脆弱な角質が2カ月間かけ表面に出た時、炎症を起こしていた部分は細菌感染を起こします。これが暑熱時に影響を受け、その2カ月後の秋に蹄病を発症するメカニズムです。
それでは、なぜ真皮に炎症を起こすかと言うと、ひとつは第一胃内pHの低下による代謝性アシドーシスです。それと、乳牛は暑熱時に体温を下げようと、起立時間が長くなり、負重性の蹄葉炎を引き起こしやすくなります。
4) 繁殖成績の低下
一昨年、昨年の暑さにより、暑熱時に受胎せず秋に受胎したため、翌年には、また暑熱時に分娩がかたまるという悪循環になっています。
暑熱時に繁殖成績が低下するのは、以下の要因によるものです。①食欲低下による栄養不足、②卵巣機能の減退、③体温の上昇による受胎率の低下等です。
5) 分娩直後乳量の低下
よく暑さが過ぎてから、その影響が出るという話しを聞きます。なぜ、そのように感じるのでしょう。

 

暑熱対策②

 

 

 

図1に北海道酪農検定検査協会の道内平均搾乳牛1頭平均乳量(平成22年、23年)を示しました。このグラフからもわかるように、平均乳量が1番低くなったのは、1番暑かった8月ではなく2年続けて11月であることがわかります。また、その低下割合はより暑さが厳しかった平成22年のほうが顕著であったことがわかります。11月に平均乳量が低い原因のひとつとして、暑熱時に乾乳だった分娩直後乳量が低かったことが挙げられます。分娩直後乳量が低いと、全体的に泌乳曲線が低くなるため、徐々に平均乳量も低くなってきます。暑さが過ぎたのになかなか乳量が増えずに、むしろ減っていくために、暑さの影響は秋に来ると感じるのではないでしょうか。

4. 繋ぎ牛舎での事例
繋ぎ牛舎の暑熱対策の事例として、大樹町の村田一浩牧場の紹介をいたします。村田牧場は経産牛約60頭のスタンチョン牛舎でトンネル換気を導入しています。
トンネル換気とは、牛舎の端側に換気扇を設置し、もう一方の端側に入気口を設けます。牛舎は密閉状態を保ち、トンネル状態にして、空気を流して換気を行う方法です。トンネル換気が上手くいかない原因としては、①ファンの能力、台数が足りない、②牛舎途中に障害物や入気口がある、③入気口が狭い等が挙げられます。ファンの必要台数は以下の数式で求めることが出来ます。
(牛舎容積㎥×45回)÷60分×換気扇能力㎥/分 45回:夏期間の換気回数      
目安として、牛がいるどの場所でも、風速が秒速1m以上であることが望ましいです。この秒速1mという風速は体感温度を6℃下げると言われています。風速を計るには写真1にあるような風量計が必要です。

 

暑熱対策④

 

 

写真2 ビニールカーテンによる飼料庫から入気の閉鎖 トンネル換気の陰圧によりビニールが引っ張られている。

 

また、入気は牛舎奥の飼料庫から入気する方法を取っていましたが、これでは入気量が少なかったため、牛舎の奥端の窓二つを全開することにより、入気量を確保しました。図2は、それぞれの牛が繋がれている場所で、どれくらいの風速があるか風量計で測定したものです。

 

暑熱対策⑤

 

図2を見てもらえばわかるように、牛舎途中の飼料庫をビニールカーテンで閉めることにより、牛舎全体の風速が強くなっていることがわかります。それにより、風速はどの牛のいるところでもおおよそ1m/秒を確保出来るようになりました。
トンネル換気の改善に加え、晴れた日に牛舎内の温度が高くなるので、窓に遮光ネットを付けるようにしました(写真3)。遮光ネットは一枚の窓分ですとホームセンターで200円程度から購入出来ます。安価な暑熱対策として、非常に効果的です。

 

暑熱対策⑥
写真3 遮光ネット
これらの暑熱対策により、夏以降の管理乳量は一昨年(平成22年)と比較して、昨年(平成23年)のほうが高く推移しました(図3)。
暑熱対策⑦
管理乳量:2産次・検定日数150日・4月分娩を基準としてのSCM乳量補正(全固形分を考慮しての補正)した乳量。
条件を揃えて補正を行い、飼養管理の良し悪しを判断する乳量として用いられる。

5. フリーストールでの事例
フリーストールと乾乳舎の暑熱対策の事例として、別海町の有限会社信田牧場の紹介をいたします。
信田牧場は例年、暑熱時期から秋にかけての乳量の落ち込みが激しく、一昨年の猛暑をきっかけに、昨年暑熱対策に取り組みました。
一般的なファン設置の重要度の順番は、①待機室、②搾乳エリア、③クロースアップ乾乳牛、④分娩エリア、⑤産褥牛、⑥高泌乳牛、⑦低泌乳牛となっています。信田牧場では待機室、乾乳牛舎、フリーストールにファンを設置しました。
信田牧場の乾乳舎は旧牛舎のタイストールを利用しています。私の経験上、搾乳牛フリーストール、乾乳牛タイストールで上手くいっている牧場は少ないです。搾乳牛がフリーストールの場合、乾乳牛をタイストールに繋いだ際に強いストレスを受けるためと思われます。特にスタンチョン牛舎の場合は顕著にストレスを受けます。信田牧場はこのパターンの飼養体系で上手くいっている数少ない牧場です。その理由は、牛床にはクッション性のある牛床マットと敷料を豊富に入れ、繋ぎ方はニューヨークタイストールで1頭当たりのスペースも十分に取っているからです。しかし、牛舎の天井が低いため、暑熱の影響はまともに受けます。乾乳牛が暑熱の影響を受けるため、それらの牛は分娩直後の乳量が低く、秋以降の出荷乳量まで影響を及ぼしていました。
そこで、乾乳牛舎には定置型の大型ファンを設置しました(写真4)。

暑熱対策⑧
写真4 乾乳牛舎の大型ファン
乾乳牛舎奥には換気を行うためのファンも付いています。乾乳舎は対頭式であり、大型ファンにより飼槽に強い風が流れるため、暑熱時期の食い込みも落ちませんでした。
搾乳牛舎にはリレー式換気を導入しました(写真5)。
暑熱対策⑨
写真5 リレー式換気
搾乳牛舎においてのリレー式換気の優先順位は、①給飼通路の上、②牛舎中側にあるストールの列の牛、③牛舎の外側にあるストールの列の上とされています。信田牧場では、給飼通路の上と3列シングルフリーストールの真ん中のストールの上に設置しました。
ファンの間隔はたいていの牛舎では2間(3.6m)間隔で牛舎の柱が立っているので、その柱の2本に一台、もしくは3本に一台の設置になっているようです。推奨されているのは、ファン直径の8~9倍の間隔です。信田牧場では柱3本に一台のファンが設置されています。
図3に一昨年(平成22年)と昨年(平成23年)の搾乳牛平均乳量と管理乳量の比較を示しました。
暑熱対策⑩

平成22年は暑熱が厳しかった8月からの乳量の減少が大きかったです。平成23年の搾乳牛平均乳量は8月以降も維持していきました。平成23年の管理乳量に至っては、9月以降むしろ増加傾向にありました。これは8月以降の分娩が少なかった割には平均乳量が維持出来たことが大きいです。すなわち、平成23年は暑熱の影響があまり受けなかったことと、乾乳牛の暑熱対策を行うことにより、分娩直後乳量、ピーク乳量がスムーズ伸びたことが、例年のような8月以降の乳量の落ち込みを無くしたと思われます。

6. おわりに
私は釧路に住んでいますが、転勤してきた10年ほど前の夏はほんとに涼しく、夏日(25℃以上)になることも、ほとんどありませんでした。夏でも半そでの必要なく、なんと過ごしやすい夏だと思っていました。それが、最近では真夏日(30℃以上)になることもあり、釧路でも夏の暑さを感じるようになりました。
私は道東の酪農家を巡回しており、以前、暑熱対策というと、どこか府県の話しという感じがありましたが、最近では道東においても暑熱対策は必須になってきました。以前も暑い夏はあったのですが、毎年というわけではなく、喉元過ぎれば熱さ忘れるではないですが、対策を行う牧場も今よりは少なかったです。しかし、こう毎年暑いと、そうはいきません。最近では、夏前にファンを注文しようとすると、品切れをおこしているという話しを聞きます。
また、リレー式換気やトンネル換気を導入しようとすると、百万円前後の費用がかかり、決して安い買い物ではありません。しかし、暑熱対策を行った牧場の話しを聞くと、1年で元を取ったという話しを聞きます。
今回は北海道においての暑熱対策の事例を紹介しました。まだ暑熱対策が十分でなく、例年、夏場の生産性ダウン、トラブルが起きている牧場の参考になればと思います。