トウモロコシサイレージの多給について

 畜産業界において厳しい状況が続く中、それに対応する一手段として、自給飼料を見直し、それを最大限に活用することが一つの大きなテーマとなっており、飼料コスト低減策の一つとして、高エネルギー自給飼料であるトウモロコシサイレージの多給技術が各研究機関から紹介されております。

1.未破砕トウモロコシサイレージと破砕処理トウモロコシサイレージ
 近年、コーンクラッシャー等の導入により、破砕処理したトウモロコシサイレージを調製する技術が普及しています。収穫時に、トウモロコシの子実を傷付けることによって、ルーメン内におけるデンプンの消化性が向上します。

表1

図1

図1.は、未破砕のトウモロコシサイレージと破砕処理トウモロコシサイレージについて、ルーメン内における消化性を調査したものです。9時間までは破砕処理トウモロコシサイレージの方がルーメン内乾物消失率は高く推移しており、破砕処理による効果(消化性の向上)が確認されます。

2.トウモロコシサイレージの多給例
 トウモロコシサイレージはエネルギー含量が高いため、それを多給することによって、濃厚飼料(エネルギー源)の使用量を減らすことが可能となります。

表2

表2は、トウモロコシサイレージの給与量を15.0㎏⇒35.0㎏⇒45.0㎏と増給した場合の、TMRメニュー例です(各区とも、栄養濃度は同等)。トウモロコシサイレージの給与量を増やすことで、エネルギー源である配合飼料の給与量を抑えることが出来ます。配合飼料給与量の低下は、同時に蛋白質の供給不足にも繋がるため、大豆粕の増給で不足分を補います。上記例では、トウモロコシサイレージの給与量を15.0㎏から45.0㎏へ増給することで、濃厚飼料の給与量を約20%抑え、1日1頭当たりの飼料コストも、77.9円削減出来る計算となります。

3.トウモロコシサイレージを多給した場合の生産性
 上記TMRメニューにて約1ヵ月間、搾乳牛に給与し、生産性を確認した結果を表3.に示しました。調査①(未破砕CS多給)、調査②(破砕処理CS多給)ともに、トウモロコシサイレージを多給することにより、補正乳量(FCM、SCM)は上昇する結果が得られました。乳成分についても差は認められず、トウモロコシサイレージを多給することによって飼料効率(牛乳生産粗効率)は上昇します。

表3

4.トウモロコシサイレージを多給による飼料コスト削減効果
 表4.は、各区のTMR設計ベースの飼料コスト、実際に摂取したTMR量を基に算出したコスト、牛乳1㎏を生産するのに掛かったコストを示しています。トウモロコシサイレージの給与量を増やすことによって、飼料コストは明らかに削減されることが分かります。また、その効果は、破砕処理によって、更に大きくなります。

表4

5.留意すべき点
 下の写真は、各TMRを摂取時の、糞性状を示しています。未破砕のトウモロコシサイレージの場合、1日の給与量が45㎏まで増えると、糞への子実未消化物排泄が非常に目立ちます。飼料コストは軽減されても、未消化物の排泄は無駄となります。また、糞中に確認されるムチン(粘液状のもの)は、大腸内で異常発酵が起こっていることを示しています。アシドーシス等の疾病を未然に防ぐためにも、繊維源は充分に確保することが肝要です。

糞性状

ムチン

 トウモロコシサイレージの多給は、飼料コスト削減策の有効な方法の一つとなります。併給飼料の構成、破砕処理の有無によっても変動しますが、現実的には30~35㎏程度と考えられます。
 また、飼料の急変は大きなストレスの原因となりますので、トウモロコシサイレージ多給メニューへの切り替えには、充分な馴致期間が必要です。