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ルーメンについて

 

<乳成分向上のためにルーメンを理解しよう>
   反芻動物がルーメンを持つ意義は、『自分自身では利用できない飼料のエネルギーを微生物の力を借りて利用可能な状態にまで代謝させる』ことです。通常、動物がエネルギー源として利用するのは炭水化物と脂肪です。炭水化物のうち、でんぷんや糖などは、どの動物も利用することが出来ます。しかし繊維の中でもセルロースやヘミセルロースの様な繊維質を分解する酵素を持たない為、エネルギー源として利用することが出来ません。ルーメンは自分自身の消化器官では消化することの出来ない繊維成分を、微生物の力を借りて消化するための器官です。
   ルーメンは牛の腹腔の左側ほとんど全部と、右側の後ろ半分を占める巨大な嚢(のう;袋のこと)です。複胃全体の8割を占め、乳牛(成牛)では約200リットルの大きさがあります。ルーメンでは多量の飼料を貯蔵し、ルーメン内に生息する微生物によって飼料を分解しています。ルーメン内容物の約9割は水分であり、微生物による発酵が充分に行われるようになっています。
   ルーメン内では飼料が段階構造を作っています。上部にはルーメン発酵で産出された二酸化炭素、メタンなどのガスが充満しているガス層、中央の層は『ルーメンマット』と呼ばれる大きな飼料片の固まり、一番下層には粒度の小さい飼料片などが堆積する層があります。ルーメンマットでは摂取した飼料や細かな穀類を捉え、また反芻を促す刺激を与えています。粗飼料はその長い繊維に微生物を住まわせるとともに、微生物による消化を受け、分解されていきます。下層では穀類などが盛んに発酵を受けています。
   ルーメン内には無数の微生物が生息し、ルーメン内容物1g当たり約100億の細菌類と50~100万のプロトゾア(原生動物)が生息しています。これらの微生物の働きにより、ルーメン内において、飼料成分の分解と合成が盛んに行われています。

ルーメン1

<ルーメン微生物の種類>
   ルーメン微生物は、繊維を分解する細菌群、でんぷんや糖を分解する細菌群、蛋白質を分解する細菌群など、多岐にわたっています。これらの細菌群の活動⇒ルーメン発酵を正常に行わせることが乳牛(反芻動物)の飼養管理の基本となります。
   ルーメン微生物の活動に適したルーメンpHは、微生物の種類により異なります。

○繊維素(セルロース)分解菌
   セルロース分解菌の活動に適したpHは6.5~7.0です。ルーメンpHが6.2まで低下すると菌の活動は低下し始め、6.0以下になると活動を停止します。
  セルロース分解菌はルーメンで生成される酢酸の大部分を生産します。酢酸は乳脂肪の基となる成分であり、牛乳生産においてセルロース分解菌の重要性が分かります。
  セルロース分解菌は、脂肪に対して敏感です。飼料中に多くの脂肪が含まれていると、セルロース分解菌の成長速度が阻害されるか、あるいは完全に排除されます。脂肪を過剰に与えると、繊維質飼料の摂取量、消化率の両方を落とすことになります。
○でんぷん分解菌・糖類分解菌
   でんぷんを分解する菌はセルロースを分解する菌と明らかに異なります。でんぷん分解菌はルーメンpHが5.5の時でも、pH7.0の時と同じようにでんぷんを発酵させることが出来ます。でんぷんを発酵する菌は、主にプロピオン酸を生成します。プロピオン酸は乳糖の原料となりますが、過度にプロピオン酸が生成されると乳脂肪を低下させます。
   糖類を発酵させる菌はでんぷんを発酵させる菌と良く似ています。糖類を発酵させる菌は、主にプロピオン酸を生成しますが、同時に酪酸の大部分も生成します。酪酸は乳脂肪を増加させる傾向があります。
○蛋白質の分解
   セルロースやでんぷん、糖類を分解する菌を含め、ほとんどの菌が蛋白質も分解します。蛋白質が分解されると、有機物の混合物とアンモニアが生成され、アンモニアは菌の細胞を作る新しい蛋白質(微生物体蛋白質)の形成(=菌の増殖)に使用されます。
   菌の増殖は、炭水化物(繊維、でんぷん、糖)から生成、利用できるエネルギーの量によって制限されます。エネルギー量に制限がある時は、必要以上のアンモニアがあっても利用されることはなく、余ったアンモニアは微生物体蛋白質の合成には利用されず、ルーメンより吸収され、尿素として尿中に排泄されます。
○プロトゾア
   プロトゾアは多様な代謝機能を持ち、主要な植物成分(セルロース、でんぷん、糖類、蛋白質)を利用することが出来ます。ある種のプロトゾアは脂肪酸を不飽和化することが出来ます。プロトゾアが活動し易いpHは、5.5~7.0です。

<ルーメン微生物の種類>
   ルーメン内は通常、温度が39℃前後、pHが6~7の間に維持されています。即ち、この状態は繊維素分解菌が活動し易い状況であるとも言えます。
   反芻動物は摂取した飼料をルーメン内で発酵させます。発酵により、酸(揮発性脂肪酸;VFA 酢酸、プロピオン酸、酪酸など)が生成されますが、ルーメン内に酸が存在することによりpHは低下します。発酵により生じる酸の量は、飼料の消化率に比例するので、牧草類のような繊維の多い(消化の遅い)飼料より、消化の早い(でんぷんや糖含量の高い)濃厚飼料が給与されている方が多量の酸がルーメン内で生成されます。pHが低下するとルーメン内の菌叢が変わってしまい、繊維の消化率が低下します。
   ルーメン内の恒常性を維持するために牛は、アルカリ性(pH8.5前後)である唾液をルーメンに送り込みます。牛は1日に約100~180リットルもの唾液を分泌しています。唾液の分泌は、反芻(咀嚼)を行っているときが一番多く、反芻は適度な粗飼料が給与されている際に頻繁に起こります。このような例からも、粗飼料が如何に大切であるかがうかがい知れます。

<反芻とは?>
   牛は、一旦食べたものを吐き戻して噛みかえし、再び呑み下すことを繰り返します。これを【反芻】と言います。

<反芻の効果-1 微細化>
   反芻の効果の第一は、再咀嚼によるルーメン内容物の微細化です。微細化によって飼料片の表面積が大きくなることにより、微生物の付着面が大きくなり、発酵が促進されます。同時に、水分との接触面積も増加し、水和性が増します。
   摂取した粗飼料は、先ずルーメンマットを形成し、ルーメン上部に浮遊しますが、水と馴染み、比重が重たくなるにつれて底に沈み、微生物による消化を受け易くなります。

<反芻の効果-2 唾液の分泌>
   唾液の主成分は重炭酸ナトリウムで、他にりん酸塩が含まれており、pH8.5前後のアルカリ性を示します。反芻動物の唾液はルーメン発酵で生成される酸を中和し、ルーメン内の酸性化を緩衝して良好な発酵をさせる上で大きく役立っています。
  唾液は3つの大きな唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と幾つかの小唾液腺より分泌されます。反芻動物では、唾液は常に流出しており、牛では1日に100~180リットルも分泌されています。牛の唾液は常に流出していますが、同じ速度で分泌されている訳ではありませN。分泌速度が高まるのは飼料摂取時と反芻時であり、唾液の分泌量は飼料摂取と反芻に掛かる時間に大きく左右されます。

<反芻の工程>
   反芻に際し、ルーメンおよび第二胃内容物が反芻を受けます。反芻は、吐き戻し・再咀嚼・唾液混合・再嚥下の4工程に分けられます。吐き戻され、再咀嚼されるものを食塊と言います。食塊は、比較的流動性のある第二胃内容物が食道内に吸引されて作られます(ルーメンマットを形成する長い繊維が移行してきて口中で切断されるのではありません)。
食塊が食道に入ると、食道筋の逆蠕動により口腔に急速に吐き戻されます(1m./秒)。食塊中の余分な液状部分はすぐに再嚥下されます。
再咀嚼された食塊は充分に唾液と混合され、吐き戻し時よりゆっくりと再嚥下されます。再嚥下された食塊はルーメンの噴門部に入り、第二胃収縮によりルーメン後方へ放出されます。

ルーメン2

<反芻時間>
   通常、乳牛は1日の3分の1以上、即ち8時間以上を反芻に費やしています。しかしどんな場合でもこれだけの時間反芻している訳ではありません。牛を絶食させると、反芻は顕著に減少し、数日で全く消滅します。この牛に少量の長い粗飼料を摂取させると、短時間ではあるものの、反芻が復活します。徐々に粗飼料の量を多くしていくと、それに伴い反芻時間も長くなります。
   牛は長い粗飼料を微細化するのに必要な反芻しか行いません。従って、濃厚飼料のような『細かな』飼料をいくら与えても反芻が刺激されることはありません。『細かな』飼料はルーメン内で急速に発酵され、ルーメン内のpHを低下させます。こうした飼料ほど、反芻時間が短くなり、唾液の分泌量が減少するので、注意が必要です。