乳房炎について

   『乳質』を左右する要因には、①乳成分②生菌数③体細胞数④セジメント(塵埃)⑤風味等の項目が挙げられます。その中で生菌数、体細胞数は乳房炎の直接的な原因となります。乳房炎は乳牛における疾病の中で、生産性に直接関わる乳腺に起きる疾病であり、経済的損失が非常に高くなります。
<体細胞とは>
   乳中体細胞には、好中球・リンパ球(血液中白血球由来)とマクロファージが含まれ、以前は乳中白血球と呼ばれていました。しかし、その由来が白血球だけではないこと、また食品としてのイメージから、体細胞(SCC;Somatic Cell Count)と呼ばれるようになりました。
  上記乳中体細胞は、おおよそ好中球60%、リンパ球25%、マクロファージ15%で構成され、正常乳体細胞数の生理的上限は10万/mlと言われています。健康牛と感染牛の閾値は20~30万/mlです。

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<乳房炎の治療と予防>
 乳房炎は伝染性のものと環境性のものに分けられます。両者とも、適切な治療、最悪でも淘汰により、改善は出来ます。しかしそれは一時的に感染牛が減ったに過ぎず、それ以上に重要なことは、感染牛を増やさない【予防】にあります。
(1)伝染性乳房炎
   伝染性乳房炎対策の第一段階は感染牛の特定です。感染牛がいた場合、新たな感染をそれ以上増やさないためにも、閉鎖牛群として管理することが重要です。
      ①感染牛を隔離して特定の場所に置く。
      ②感染牛を搾乳するユニットを別に設ける。
      ③正常牛を先に搾り、感染牛は最後に搾る。
   伝染性乳房炎を農場に持ち込む可能性が高いのは、牛(導入牛)と人(酪農家・獣医師・家畜商など、感染牛の乳頭に触れる可能性の高い人)です。
      ①農場入り口での車の消毒。
      ②農場内でのプラスチックシューズ、もしくは専用シューズの使用。
      ③牛舎内立入時の手指の消毒。
   上記のように、感染の可能性のある状況を洗い出し、対策を講じることが必要となります。伝染性乳房炎は、高い感染力を持ちますが、病原菌を農場から撲滅することは可能です。
(2)環境性乳房炎
   環境性乳房炎は感染力こそ弱いのですが、原因菌を農場から撲滅することは出来ません。環境性乳房炎の原因菌は、土壌、牛体、糞尿などに常在しているからです。環境性乳房炎をコントロールするためには、原因菌の増殖する状況を牛の行動範囲内に作らないことです。

<Clean and Dry(クリーンアンドドライ)>
   クリーンアンドドライは乳牛を管理していく上での基本事項となります。
  環境性乳房炎の原因となるバクテリアの急速な増殖に影響する要素は①気温②湿度、水分③有機物の存在です。気温や湿度を人間がコントロールすることは出来ません。長雨などで湿度が高く、バクテリア増殖の可能性が考えられる条件下では、クリーンアンドドライを保つよう、以下のような日常の管理作業を強化することが必要です。
      ①牛体を濡らさない。
      ②乳房の毛刈りを徹底する。
      ③濡れた乳頭を搾乳しない。
      ④プレディッピング・ポストディッピングを行う。
      ⑤牛舎内の換気効率を高め、牛床を乾かす。
      ⑥牛床の管理、手入れの回数を増やす。
      ⑦搾乳作業の精密度を高める。
   環境性乳房炎は完全に無くすことは出来ないため、バクテリアと共存しながら増殖を抑えるような管理作業を理論的に組み立て、それを日常管理として定着、気象条件でよっては強化するなど、常に意識して作業することが重要です。

<Cow Confort(乳牛の快適性)>
   牛が常に快適な環境で飼養されていれば、産乳量は高くなり、牛は清潔になります。逆に様々な環境ストレス(熱的ストレス・肉体的ストレス・疾病ストレス・行動的ストレス)をかけることは牛の病原菌に対する抵抗性を弱め、乳房炎をはじめとした代謝障害の原因となります。カウコンフォートの意味するところは、牛が清潔で乾燥した状態(クリーンアンドドライ)の中で快適に生活できるということです。

(1)ストール
    ポイントは、牛がノーマルな状態で立ったり座ったりできることです。窮屈なスペースで牛が立ちあがろうとすると、牛に余分な圧力がかかり、肢蹄を痛めたり、乳頭を踏んでしまうことが多くなります。また、敷料についても正しい管理が必要です。
   (敷料の備えるべき機能)
         ①適度なクッション性がある。
         ②吸水性に優れている。
         ③化学的に安定している(化学変化を起こさない)。
         ④食べても毒にならない。
         ⑤牛に対する病原菌、感染菌を含まない。
(2)換気
  自然換気が最も経済的なカウコンフォートを達成します。換気の基本的な目的は、夏場は温度コントロールであり、冬場は湿度コントロールです。特に冬場の湿度コントロールが悪いと、呼吸器病や乳房炎の危険性が増加します。

<飼料給与と乳房炎>
   高蛋白、低エネルギー飼料の給与体系の中では乳房炎が多くなる傾向があります。これは、分解性蛋白質の過剰、NFCの不足が肝臓への負担を大きくし、エネルギーの不足が肝機能を低下させることから、肝機能減退に伴う抗病力の低下が乳房炎菌の感染を容易にしていると考えられます。
    (乳房炎の原因となる飼料給与)
        ①低エネルギー(肝機能低下→抗病力の低下)。
        ②高蛋白(分解性蛋白質過剰の場合、肝臓への負担増)。
        ③マメ科飼料の多給(エストロジェン様物質の乳腺への影響)。
        ④品質不良の飼料給与(肝臓への負担増、ルーメン発酵の異常)。
        ⑤硝酸態窒素の多給(ビタミンAの破壊と高蛋白給与)。

   生菌数は環境衛生、牛体管理、搾乳衛生、ミルカーの設計、ミルカー洗浄技術、牛乳の冷却技術など様々な面で関連しており、これらが損なわれるとどんどん悪くなります。また、体細胞数は乳腺の健康の指標となります。体細胞数が高いということは乳腺に炎症があり、体の防御機能が活発になっていることを表しています。体細胞数の少ない牛乳を生産するということは乳房炎を制圧するということです。
   これらの項目については、環境衛生をはじめとした、目に見えるところを変えることによって改善される可能性が非常に高くなります。既述した乳質管理に関する具体的作業は一部でしかありませんが、全てが関連しており、その作業を『安定した状態』で行う事がカギとなります。

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