牛群モニタリング

【牛群モニタリング】                                                                                              弊社トータルサポート室は全国合計8名で酪農家への飼養管理の技術支援を行っています。その方法としては、モニタリング、データ解析、聞き取り調査を行い牛群の問題点と具体的改善策を提案することです。特に重点を置いているのは乳牛の健康維持です。モニタリングを行い、コンディションを適正化することにより疾病を減らすことが可能です。                                                        モニタリングの記録用紙は酪農家が視覚的にわかるように工夫しています(図1)。正の字で頭数をカウントし、この分布によりコンディションの状況を説明しています。また、牧場の牛がどれくらい痩せているのか太っているのか、肢の状態はどうかといったものを数字で示せるようにしています。

モニタリング記録用紙

図1.モニタリング記録用紙

【ボディコンディションスコア(以下BCS)】                                    私は幾つかのBCSを習いましたが、現在使っているもので3種類目になります。現在使っているBCSはファーガソン博士のUV法です。このBCSの見方の利点は、より具体的にスコアの基準を定めている点です。すなわち、誰がBCSをつけてもほぼ一致します。                                             BCSは2.5以下を痩せすぎ、3.75以上を太りすぎと評価しています。私は道東、関東、東北を中心に牛群のBCSを取ってきました。それら約200戸の平均で、2.5以下が11%、3.75以上が12%です。痩せすぎが多い牛群は最盛期のエネルギー不足で繁殖成績が悪い牧場が多いです。特に分娩してからBCSの低下が激しい牧場は要注意です。太りすぎが多い牛群はインスリン抵抗性の割合が増えます。すなわち、ケトーシスや脂肪肝のリスクが高まります。TMRセンターのTMRを給与している牧場は高泌乳牛群が多いですが、3.75以上の割合も20~30%という牧場も多く、ケトーシスが増える傾向にありました。                                                                     巡回している牧場の中には高泌乳牛群で疾病も少なくBCSがまとまっている牧場があります。その事例をタイストールの牧場とフリーストールの牧場で一例ずつあげます。                          A牧場はタイストールで経産牛140頭を飼養しています。個体乳量は約10,700kgです。搾乳牛舎では115頭をタイストールで飼っており、自動給飼機で配合とビートパルプを給与しています。それ以外はバイパス油脂、ビタミンミネラル剤を含む混合飼料と、グラスサイレージのみです。分娩した後は自動給飼機で徐々に配合飼料の給与量を増やしていきます。受胎した牛はBCSの状態、乳量を見て、給与量を減らしていき、メリハリをつけています。その結果、BCS2.5以下が6%、3.75以上が3%と、特に太っている牛が極端に少なくなっています。                                                B牧場はフリーストールで230頭を飼養しています。個体乳量は10,200kgです。この牧場はグラスサイレージ、配合、ビートパルプ、とうもろこしミール、ビタミンミネラル剤といった非常にシンプルなメニューです。しかも、TMRは一般的なものよりは濃度が低いです。この牧場は以下の特徴があります。①乾物摂取量が高い、②繁殖成績が良い、③一群TMRで泌乳曲線の持続性が高いことです。最盛期の牛でも乾物摂取量が高いため、さほど痩せません。泌乳中~後期は乳量の持続性が高く、エネルギーも過剰になっていないので、徐々にBCSが高まっていくという状況です。その結果、BCS2.5以下が5%、3.75以上が4%とまとまっています。補足として、A牧場、B牧場ともに乾乳牛の飼養管理と牛舎環境が良いことをあげておきます。これらの牧場は個体乳量が高くてもコンディションが良く疾病が少ない事例です。                                                               【ロコモーションスコア】                                                                                    ジンプロ社が紹介しているものを用いています。それは牛を歩行させてモニタリングするものです。しかし、日本ではタイストールが多く、フリーストールにおいても通常飼養時に全頭歩かせて見るのは困難です。そこで、同じくジンプロ社から紹介されているフットシグナル(立っている状態での肢の状態の見方)を組み合わせています。写真1はスコア1か2で蹄の幅が内ももの幅と一緒であり、蹄の外側への回転が15度以下です。写真2はスコア3で蹄の幅が内ももの幅に比べ狭くなっており、蹄の外側への回転が15度以上になっています。写真3はスコア4で左後肢に体重をかけられない状態になっています。もし、スコアの判断に迷った時はフリーストールであれば歩かせて確認するようにしています。

跛行スコア

左から写真1、2、3

蹄病の原因は大別すると、非感染性蹄病(主に蹄底潰瘍、白帯病)と感染性蹄病(主に趾皮膚炎)に区分されます。この三種類で蹄病の約8割の原因を占めると言われています。ロコモーションスコアをチェックしていて、以下のような状況であれば趾皮膚炎が多いと判断しています。①初産に跛行牛が多い、②足が痛くてつけない独特の立ち方をしている、③幹部にイチゴ状の病変が確認出来る等です。削蹄師が記録を残している場合は、それを参考にすることにしています。趾皮膚炎が多い時は、①蹄浴、②局所噴霧、③環境の衛生状況を改善する等の対策を取ります。非感染性の蹄病が多い場合は、①適切な栄養管理、②デザイン、クッション性の牛床、③暑熱対策、④適切な削蹄等の対策を取ります。                                                                                                    私たちが蹄病対策で重点を置いていることは横臥率を高めるということです。過去に何度か牛床の素材をクッション性の良いものに変え、横臥率が高まることにより蹄病と生産性が改善されたという経験をしています。米国・リック・グラント博士の調査では1日1時間の休息時間の増加により、1.7kgの産乳量が増加したとあります。                                                                              その他のモニタリングとしては、糞スコア、糞洗い調査、飛節スコア、移行期牛の乳房の張りやルーメンスコア等をチェックしています。糞洗いについては次号で詳しく説明します。 今回紹介したモニタリングと牛群や乳成分データ、聞き取り調査を組み合わせることにより、その牧場での問題点がより鮮明になります。それに対しての具体的改善策の提案は経験値がものを言うため、日々私たちは酪農家を巡回することによって、それらを積んでいます。