多回搾乳について

<搾乳回数と乳量>
搾乳回数を増やすことによって乳量が増加することが知られています。表1は搾乳回数と乳量の関係を示すいくつかの試験結果をまとめたものですが、こうした多くの試験結果からも搾乳回数を増やすことによって乳量が増えることがわかります。また、搾乳回数を2回から3回に増やした場合の全泌乳期間を通しての乳量の増加は12~16%と報告されています(Camposら 1994、Kleiら1997、Smithら 2002)。もし、9,000kg牛群で乳量が12%増加したとすると、単純計算で年間1頭当たり1,080kg、搾乳頭数が100頭だとすると出荷乳量が100トン以上増えることになります。

 

多回搾乳について

 

<乳量が増える理由>
乳量と乳腺細胞には強い相関関係があります(Tucker 1966、Capucoら 2001)。つまり、乳腺細胞の数が多ければ乳量も増えることになります。乳腺上皮細胞は脳下垂体から放出されるプロラクチンによって分化が促されますが、搾乳回数を増やすとプロラクチンの放出量が高まり(Dahlら 2004)、さらにプロラクチン受容体も増加します(Dahlら 2002)。したがって、搾乳回数を増やすことは、乳腺のプロラクチン感受性を高めて乳腺細胞の分化を活発にし、これが乳量の増加につながります。

 

 

<産褥牛における多回搾乳>
泌乳初期だけ搾乳回数を増やし、その後に通常の搾乳回数に戻しても、乳量増加の効果が持続するという報告があります(Bar-Peledら 1995)。Haleら(2003)は、分娩後または分娩4日目から3週目までの期間を4回搾乳、その後は2回搾乳とした場合、4回搾乳の期間だけでなく2回搾乳に戻した後も通常の2回搾乳の時よりも乳量が高かったと報告しました(表2)。つまり、21日間だけ4回搾乳することによって、全泌乳期間で高い乳量が得られたことになります。この時の1日4回搾乳は、朝夕の搾乳の前後にそれぞれ2回搾る方法で行われ、搾乳間隔は、9時間、3時間、9時間、3時間でした。また、Wallら(2007)は、搾乳回数を増やすのは分娩直後から2週目、または分娩1週目から3週目までの2週間で十分と報告しました。このように、産褥牛を2週間だけ多く搾る、また、通常の搾乳の前後に対象牛だけを搾るという方法であれば、搾乳ロボット導入農家以外でも多回搾乳の実現が可能かもしれません。

 

多回搾乳について

 

<搾乳回数と乳成分>
多回搾乳が乳成分に及ぼす影響ついての結果は様々ですが、乳量増加に伴い、乳脂率や乳タンパク質率が低下したという報告があります(Bar-Peledら 1995、Smithら 2002)。
体細胞数は搾乳回数を増やすことによって減少したという報告があります(Allenら 1986、Smithら 2002)。原因菌が乳房内で滞在できる時間が減ることが主な要因のようです。搾乳回数を増やす場合、体細胞については、搾乳設備の衛生や点検、そして過搾乳の防止も重要です。

 

 

<搾乳回数と繁殖成績>
高島ら(2006)は、搾乳ロボットによる多回搾乳が分娩後の繁殖性に及ぼす影響は低いと報告しました。一方、Smithら(2002)の試験では、2回搾乳に比べて3回搾乳では、空胎日数と分娩間隔が伸び、授精回数の増加がみられました。また、Allenら(1986)の報告では、3回搾乳を行った初産牛のみ繁殖成績が低下しました。
搾乳回数に関わらず、泌乳ピークにかけてボディコンデョションスコア(BCS)が大きく低下した牛は、繁殖成績が悪くなります。これらの試験結果の違いは、BCSのコントロールの成否によるものと考えられます。搾乳回数の増加による乳量増加に伴って乾物摂取量が増えることも報告されています(Bar-Peledら 1998)。牛が通常よりも痩せてBCSが急激に落ち込む場合、また、乳タンパク質率が低い等、乳成分に変化がある場合は、エサの増給や栄養濃度を高める必要があると考えられます。

 

 

<多回搾乳を実施する際の留意点>
①乳量増加によって乾物摂取量が増えれば、飲水量も増加します。飼料の量と濃度だけでなく、水の確保が重要です。
②一般的に牛は搾乳直後に最も食欲が増しますので、搾乳後に牛が常に飼料摂取できる飼槽状態を保つことで乾物摂取量を効率的に高めることが可能であると考えられます。このために搾乳前または搾乳直後に飼料給与および追加する体制を整えることが理想です。
③搾乳時間が増えることは、結果的に牛の休息時間を短縮させてしまいます。これまで以上に安楽性の高い牛床環境を提供することが求められます。
④搾乳機器の負担は増加します。機器点検、維持管理は2回搾乳時よりも気を使うべきです。
⑤作業時間の増加分に対応できる労働体制の構築、または労働力の確保も必要になります。